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引き波(詩)

春が近づいているのに春が遠くなった気がします。砂浜に映る短かった影が僕の身長より長くなるまで君はいてくれたのに。世界中の時計が壊れて、時間がなくなったとでもいうのでしょうか。でも、時間に意味があるのなんて電車に乗るときだけみたいです。とにかく今の僕には時間なんて意味がないのです。
海風が冷たくなってきました。君は腕にかけていたコートを羽織りました。それでも僕の時間は動き始めてくれません。
君が去っていく背中を小さくなるまで見つめました。君が通りの角を曲がって僕の視線から消えました。僕は同じ姿勢のままただじっと立っていました。
君が最後に言った言葉が耳に寄生して離れてくれません。「私は愛なんて信じてないから、あなたを愛してるなんて言えない」チェックメイトです。トドメの一撃です。返す言葉をまだ探していますがなかなか見つかりません。それに君ももういません。
まわりの暗さが時間の動き始めたことを知らせてくれました。
やっと返事を思いつきました。「僕も愛なんて信じてなかったけど君に会って愛を信じられるようになったんだ」でも君はもういません。だから寄せてくる波に言ってみました。波は僕の言葉を包んで引き返していきました。

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