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連載日本史246 日本国憲法(1)

新たな時代の国家の礎となる新憲法の制定は、戦後の日本にとって喫緊の課題であった。1945年10月にマッカーサーが幣原内閣に対して行った憲法の自由主義化の勧告に従い、松本烝治委員長を中心とした憲法問題調査委員会が改正要綱(松本私案)を作成したが、天皇主権を認める保守的な内容であったため、GHQに拒否された。一方で民間知識人による憲法研究会が作成した憲法草案要綱は主権在民と立憲君主制を明記しており、GHQはそれらも参考にしながら、自ら草案作成に乗り出した。GHQと日本政府の間でのやりとりを経て修正を重ねた草案はマッカーサーの支持を得て、新選挙法での総選挙で成立した第一次吉田茂内閣のもとで、枢密院・帝国議会の審議と修正を受けて可決されたのである。

憲法草案作成に関わった主な人々(mainichi.jpより)

新憲法の三大原則は、国民主権・平和主義・基本的人権の尊重である。大日本帝国憲法での主権者であった天皇は新憲法では国民統合の象徴とされ、国政に関する権能を持たない存在となった。憲法前文の冒頭では、「日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、(中略)ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」とあるように、国民主権の原理が明確に示されている。その具体的な裏付けとして、選挙権の保障(15条)、国会の最高機関性(41条)、議院内閣制(66条)、憲法改正権(96条)などが盛り込まれている。天皇を象徴とした主権在民の立憲君主制を、新たな日本の政体の基本原理としたのだ。

大日本帝国憲法と日本国憲法の比較(highschooltimes.jpより)

日本国憲法の平和主義は憲法前文と第9条に示されている。前文では「日本国民は恒久の平和を念願し、(中略)平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。(中略)われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と宣言されており、自国のみならず、世界の平和のために貢献すべきだという立ち位置を明確にしている。第9条には「日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とあり、第2項では「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」とある。戦争放棄・戦力不保持を明確に掲げたわけだ。その後の解釈により、自衛のための戦力保持は認められているが、根本的な精神は変わっていないはずである。すなわち、国際紛争を解決するための武力行使はあり得ないということだ。

新憲法の政府草案を歓迎する新聞記事(mainichi.jpより)

日本国憲法はGHQに押しつけられたものだとして改憲を訴える人々がいる。確かに憲法草案の作成過程にはGHQが大きく関与してはいた。しかし、当時の日本国民の多くが、戦争への反省と新時代への期待から、新たな憲法の制定を大きな喜びをもって迎えたのも事実だ。1946年11月3日、日本国憲法公布を記念して皇居前で開かれた祝賀大会には、10万人もの人々が参加したという。

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