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きっと秋のせい

毎年この時期になるとフジファブリックの赤黄色の金木犀が頭の中を流れる。金木犀ってなんだからトイレの芳香剤の匂いみたいで好きになれないのよね、という私にあのひとは笑う。鼻をツンとつくような匂いを嗅ぐと、否応無しに秋が来たのだと体に知らせてくるから。

昨日は久しぶりに泣いてしまった。今年あと一回でも会えたらいいな、というのが最近の私たちの会話だから。もしかすると会えるかもしれない、となった昨日は慌ててホテルと飛行機を探したのだ。けれどもかさむ交通費とホテル代に思わず絶句。遠距離って辛いって分かっていたけれど、たぶん初めて昨日その辛さを本当に分かったみたい。

お互いね、無理すれば会えるのよ、と言う私。でもね、無理して今会うのはダメだよね、次に会った時一緒に美味しいものを食べようねと言葉を紡ぎながら、らしくなく泣いてしまった。

久しぶりに聞いたあの人の少し落ち込んだような声がちょっぴり悲しかった。でも俺のために泣いてくれてありがとう、次会うときは絶対美味しいご飯食べさせてあげる、と。食いしん坊の私を一生懸命に慰める声。

部屋の窓が開いていた。隙間風が通り抜ける我が家は冬はとても寒い。思わずつまさきを震わせ窓を閉めたらほんのりと秋の匂い。さみしさの匂い。

志村正彦が「赤黄色の金木犀の香りがしてたまらなくなって」と歌った言葉の意味が身に染みた。すべては秋のせい、なのかもね。



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