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落語台本「世紀の大発明!」

 最近の技術の進歩は凄いですね。スマホなんか、どんどん新機能が追加されていってます。なかなか追いつけません。ついこの前まで、どの家も黒電話だったんですが、若い人はそんなの見たこともないんですよね。まあ黒電話なんて、別に知らなくても大丈夫なんですが、昔のことを知らないと、おかしなことが起こってくる場合もあるようでして、、、

前田「課長、ちょっとお話が。」
課長「なんだね 前田くん。」
前田「私、すごい発明をしました。」
課長「発明!?何の話だよ。」
前田「画期的な発明ですよ。これです。まだ試作品なんですが(渡す)。」
課長「なんだ、この透明な管を2本、二股にコンパスみたいにつなげて、上に持つところがあるな。何、これ?」
前田「これはですね、液体を一つの容器から別の容器へ、気圧の差を利用して移すことができるんです。」
課長「これが画期的な発明?」

前田「そうですよ!気圧を利用するんで、タダです!電気やガソリンも不要!人類を救う発明です!で、課長、私、会社辞めます!これを商品化して自分で会社を作ります。今までお世話になりました!(お辞儀)」
課長「なんだよ、いきなり。おい、待て待てっ!早まるなよ!」
前田「え、早まるなって、、、。会社設立はまだ早いってことですか?」

課長「いや、違うよ。そもそも、の話だよ。」
前田「そもそも?」
課長「そもそも、だよ。前田くん、、、、この商品さあ、、、、あるよ。」

前田「え?(笑って)いやいやいや、ある?この発明が?、、、いや、これは画期的な、はつめ、、、」
課長「あるよ。見たことないの?灯油ポンプ。又の名を醤油ちゅるちゅる。」
前田「え?ちゅるちゅる?」
課長「まあ、それはいいや。灯油ポンプだよ。ポリタンクから石油ストーブに灯油を移すやつ。」
前田「ははー、なるほど!確かに、そういう使い方もできそうだ。」
課長「いや、それしかないだろ!この発明使うの。とにかく、これ、あるよ。」

前田「いやいや、そんなことないでしょう。私のオリジナルですよ。風呂に入ってて、この風呂の水を洗濯機に移して再利用したいな、って思って」
課長「それも、確かあったよ。」
前田「ええ、、そんな!ゼロから1年以上掛けて考えたんですよ。」
課長「まあ、君が自分の力で発明したんなら確かにすごいよ。でもさあ、あるんだよ、これ。灯油ポンプ見たことないの?石油ストーブは?」

前田「見たことはないです。」
課長「そうか、、。エアコンだもんな、今は。昔は、どの家も石油ストーブで、やかんを置いてさ。たまに餅も焼いたりしてさ、で、くっついちゃって、焦げたモチと醤油の匂いが、香ばしくてねえ、、、」
前田「課長、何の話ですか。」
課長「いや、だから灯油ポンプだよ。あ、、、そうだ、誰か、倉庫に古い石油ストーブと灯油ポンプあるだろ。あれもって来て。」

課長「おお、これこれ。前田くん、ほら、これが石油ストーブだ。そして、これが、灯油ポンプだ(渡す)。」
前田「(しげげしげと触ってみる)ええ?まさか。あー!アイデア盗まれた!」

課長「だれも盗んでないよ。これ、ドクター中松の発明だよ。」
前田「何ですか?それ、どこの病院の医者ですか?」
課長「医者じゃないよ、、、。そうか、灯油ポンプ知らない奴は、ドクター中松も知らないか。足にバネをつけて ぴょんぴょん飛んでた人だ。あと、フロッピーディスク。」
前田「なんか、さっきからぴょんぴょんとか、ちゅるちゅるとか。胡散臭い。」

課長「とにかく、この発明はもうあるんだ。ほら、(周囲を見回す)課のみんなも、さっきから笑ってるぞ。」
前田「(周囲を見回して)そ、そうなんですか。あるんですか、、、。くそー、ぴょんぴょんドクターに負けたのか。一足遅かった!」
課長「でも、そんなことより、(ニヤニヤしながら)前田くん、会社、やめるの?」
前田「あ、、、いや、あの、、私、わが社は最高だな!と思う気持ちは、だれよりも強いです!」
課長「調子がいいなあ。まあ、こんなポンプの発明に時間使ってんじゃないよ。ちゃんと仕事しろ!もっと、会社の金になることを考えろー!」

前田「課長、、、」
課長「なんだ、前田くんか。」
前田「画期的な発明をしたんです。」
課長「はー(溜息)、キミは全く、、、先月の灯油ポンプで懲りてないの?金になることを考えろって、言っただろ!」
前田「いや、今度はホントに金になる話ですよ。新しいビジネスプランです。」

課長「プラン?ポンプじゃなくて?」
前田「プランですよ、、、。課長、食事のデリバリーサービスはご存じですか?」
課長「ああ、ウーバーイーツとかだろ。よく使うよ。」
前田「あれ、便利ですけど、いろいろ問題もあるじゃないですか。」

課長「おお、そうなんだよ。配達の時に汁がこぼれちゃったり、食べ物が崩れちゃったり、あと、意外とネットの注文も面倒くさいんだよな。」
前田「そうなんですよ!配達員も注文がないと収入がない、とか。あと、容器も全部使い捨てですから、環境にも悪いんですよ。」
課長「確かにな。」
前田「そこで!!私は、そういった問題をすべて!解決する新しいビジネスプランを考えました!」
課長「おお!面白そうじゃない、どんなプランなの。」

前田「その名も、『デリバリー・マイホーム・エコシステム』です!」
課長「なんだ、デリバリー、なんとかって。要はどういうことなの?」
前田「まず、配達員は、お店が直接雇います。誰が配達するか分かりますから安心ですし、配達員の収入も安定します。」
課長「まあ、そうだな」
前田「あと、メニューを紙に印刷して、各家庭に配っておくんです。新聞の折り込みチラシで入れてもらいます。」
課長「なんかレトロなやり方だな。」

前田「ネット注文も一々ネットを開くのは面倒ですから、電話だけにします。」
課長「電話だけかあ、、、」

前田「あと、ここがポイントです。使い捨て容器はやめて、リターナブルにします。使い終わったら、洗って玄関の前に出しておいてもらうんです。それを配達員が回収する!」
課長「玄関前?おいおい、、、それ、、、」
前田「使い捨て容器は一切使いません!地球にやさしい!画期的なビジネスモデル!」

課長「おい、前田くん!それ、、、、あるよ!!」
前田「え?ある?どう言うことですか?」
課長「どういうことですかって、、、あるよそれ!ウーバーイーツの前は蕎麦屋、ラーメン屋、あと寿司屋!みんなそれだったの!」

前田「そうなんですか!画期的なビジネスモデルだから、これを使って我が社も相当稼げると思ったんですよ。『デ』リバリー・『マ』イホーム・『エ』コシステム、略して『デ・マ・エ』システムです!」
課長「それ、出前って言葉知ってて、わざとやってるだろ!」
前田「なんのことですか?」
課長「とぼけんじゃないよ!キミのプラン、昔っからある、出前、そのものだよ!」

前田「えーそうなんですか。でも、一つ発見したんですよ。汁がこぼれない仕組みを。」
課長「発見、、、?はぁー、いやな予感。で、なんなの?」
前田「バイクの後ろにつける装置なんですがね、三角の枠があって、そこに吊るすように食べ物のケースをセットすると、なんと!バイクが傾いても容器が水平のまま!」
課長「それもあるよ!出前といえば、あのバイクの後ろの装置だろ。あの、みんな知ってるけど、名前のわからない謎の装置!」
前田「いや、蕎麦屋の前で、バイクの後ろの装置を見つけた時、コレはデマエシステムに使えるな!ってひらめいた!」
課長「昔っから出前に使ってんだよ!」

前田「そうですか、、、既にあったんですね~、くそー、先を越された!」
課長「しょうがない奴だなあ、キミは。出前のことなんか忘れて、もっとちゃんとしたアイデアを考えてくれよ。」
前田「はい、すみませんでした。では、次のサービスは、今すぐに考えます!今出します!」
課長「おいおい、今出すのはやめてくれよ。」
前田「どうしてですか」
課長「『今出ました』だと、出前のことを思い出すから。」

(おわり)

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