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The 1975をリアルタイムで追えて、僕は本当に幸せだ。

僕が高校生だった頃、音楽雑誌「クロスビート」で年代別ロック特集なる企画が何ヶ月か連続であって、食い入るように読んでいました。その中の70年代ロックの回でOasisNoel Gallagherがこう語っていたことが、今もすごく印象に残っています。(正式には昔のインタビューからの引用)

「ビートルズのライヴが見れなくて残念だったな、っていろんな奴に言われるけど、ジャムは俺のビートルズだったんだ。」

リアルタイムでThe Beatlesを見れなかったものの、The Jamというこれまた伝説的なバンドを追いかけることができたNoel。俺は俺なりにやばい瞬間を目撃してきたんだと、その喜びが伝わってくる一言です。後の彼(はもとよりOasis)の音楽性への影響を考えると、まさに彼にとってThe JamはThe Beatlesのように偉大で、憧れの存在だったのでしょう。

The Beatlesは今も世代やジャンルを越えて、多くの人々に影響を与え続ける存在でありますが、他方リアルタイムで追いかけてきた人は決して多くないでしょう。当然ながら僕もその一人です。そんな今、「あなたにとってのThe Beatlesは誰ですか?」と聞かれたらやはりこのバンド以外にはいません。5月22日、世界中が待ちわびた最新作をついに世に放ったマンチェスターの4人組バンド、The 1975です。

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「現在進行形で夢中になれるバンド」を求めて

僕は音楽が趣味の一つになってから10数年ぐらい経ちますが、一時ある劣等感に勝手に苛まれていました。

「昔のように時代を代表するバンドの歴史的瞬間にはもう立ち会えない」

2000年代こそColdplayThe StrokesArctic Monkeysといったバンドが人気を得ましたが、正直最もホットな瞬間をリアルタイムで追えているわけではありませんでした。加えて2010年代はヒップホップやEDMが台頭、その中でも良いバンドはデビューしていたものの、やっぱり何処か物足りなさを感じずにいられませんでした。かつての人が『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』を聴いて「これは革命だ!」と騒いだり、Sex Pistolsの衝動的でアウトローなアティチュードに夢中になったり、Oasisのデビューアルバムを聴いて「The Beatlesの再来だ!」と興奮したように、音楽の歴史が目の前で動く瞬間を見て熱狂したい! でももうしばらくそんなバンドは出てこないのかな... ずっとそう思ってきた僕をそんな「劣等感」から解放させてくれたバンド、それがThe 1975なのです。


僕がThe 1975と出会ったのは4年前、2ndアルバムI Like It When You Sleep, For You Are So Beautiful Yet So Unaware Of It』の頃。当時大学生だった僕はメタルやハードコアに走っており、インディーロック界隈はしばらくチェックしていませんでした。そんな事もあってすぐにハマることはなかったのですが、2018年にリリースされた3rdアルバムにして大名盤A Brief Inquiry Into Online Relationships』を聴いたことで僕は見事にThe 1975の沼にハマっていくことになります。

まず心を掴まれたのはそのサウンド。デビューの時からこだわる80sポップサウンドにとどまらず、ポストパンク、ジャズ、アンビエント、エレクトロニカなど様々な音楽の要素を取り入れながらも、一番のポイントはすごくすっきりまとまっているところです。色々なジャンルに手を出しすぎると陳腐な出来になりがちですが、『A Brief Inquiry Into Online Relationships』は全編通して一切そのようなことを感じさせない圧倒的な完成度の高さがあったのです。

僕は"Give Yourself A Try""Sincerity Is Scary"が収録曲の中でも特に好きなのですが、どちらも1枚の同じアルバムの曲なのか!と初めて聴いた時は衝撃を受けました。

もう一つは稀代のフロントマン、Matthew Healyが書き上げる歌詞の数々。その内容は薬物中毒に苛まれた時の実体験から、インターネットや銃社会などの社会問題まで多岐にわたりますが、それらの一つ一つに含められた混沌としがちな今を生きる自分たちの心を揺さぶるパワーにやられました。スター気取りをせず、常に普通の一人の人間として生きようとするMattyのスタンスもその説得力を強調させています。
特にこの"Love It If We Made It"は人種差別、難民、環境問題、ジェンダー、SNSなど現代社会に暗い影を落とす問題を緊迫感たっぷりに取り上げながら、「何かを成し遂げることは素晴らしい。」と希望に満ち溢れたメッセージを伝える、本作ひいては時代を象徴する名曲です。ポリティカルでシリアスな話題を取り上げてきたロックアーティストといえば、U2Bruce Springsteenが顕著ですが、The 1975もまたインターネットの時代に葛藤する現代人(とりわけ若者)に時に等身大で寄り添うような、また考えたり行動を起こすきっかけを与えるメッセージの数々を発信している、まさしく時代の代弁者なのです。

そんな二つの魅力をさらに存分に味わい、The 1975を僕にとってのベストバンドたらしめたのが、昨年のSUMMER SONIC 2019でのステージでした。

本当に最高なタイミングでの来日でしたね。今でも生涯で観たライブで一番良かったと変わらず思っています。夕暮れ時のマリンステージに彼らの音楽が響き渡るあの時間は、本当に人生至上の瞬間でした。特に『A Brief Inquiry Into Online Relationships』の収録曲である"I Like America & America Likes Me"と"Love It If We Made It"は今思い出しても鳥肌が立ちます。Mattyの凄まじいステージングも相まって歌詞により力強さを増した素晴らしいパフォーマンスは、オーディエンスを感動の渦に巻き込みました。

このライブの後に感じた余韻は、それまで好きなアーティストを観終わった後のそれとは明らかに違いました。「本当に歴史的な瞬間を目撃した」と心の中でそう確信し、同時に溢れんばかりの嬉しさを感じました。

こうしてThe 1975は現在進行形で夢中になれる「僕にとってのThe Beatles」たる存在になりました。


世界中の人と同時に熱狂する多幸感

『Notes On A Conditional Form』

このアルバムにどれだけ多くの人が様々な思いを寄せて待っていたのでしょう。僕も昨年の9月には公式オンラインストアでヴァイナルをプリオーダーしたくらい、ずっと心待ちにしていた作品でした。

前作『A Brief Inquiry Into Online Relationships』は、ロックバンド不遇の時代に彗星の如く現れたマンチェスターの4人組のまさに「最も重要な分岐点」と呼ぶに相応しい衝撃的な作品でした。「Music For Cars」のコンセプトのもと、前編にあたる前作に対して後編とされる『Notes On A Conditional Form』に対する期待も高く、アルバムリリースまでに発表されたシングル曲全てが違う毛色だったのも相まって、どんな作品になるのだろうとワクワクが止まりませんでした。

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そして5月22日、遂にリリースされた『Notes On A Conditional Form』は22曲という大作レベルのボリューム、そして前回に負けず劣らず多彩なジャンルの曲を収録しているにも関わらず、まるで1本の映画を観るかのような流れが素晴らしい傑作でした。Greta Thunbergの「It is time to rebel (反抗する時だ)」で締められる演説をフィーチャーしたオープニング"The 1975"からの怒りに満ちた"People"の流れはやはり鳥肌ものでしたし、中盤の"Nothing Revealed / Everything Denied""Tonight (I Wish I Was Your Boy)"のようなブラックミュージックにインスパイアされたナンバーも最高、真っ直ぐなメンバーへの愛を歌った"Guys"は「Music For Cars」という壮大なチャプターのエンディングとしてあまりにも美しく完璧なものでした。ちなみに僕の一番のお気に入りポイントは"Roadkill"→"Me & You Together Song"の流れです。


日付が変わってリリースされると同時に多くの人が聴き、想い想いの言葉でその感想を次々とTwitterなどインターネット上でシェアしました。そんな中で僕は、ネット社会は確かに多くの問題点があれど、同じタイミングで同じアルバムを聴いてリアルタイムで感想を語り合えるのは、現代ならではのとても素晴らしいことだと強く感じました。アルバムリリース前、The 1975は3週間にわたっては過去3作の「リスニングパーティー」なる企画をTwitter上で行い、日本でも深夜にトレンド入りして話題になりました。日本では深夜3時スタートというなかなか酷なものでしたが、あれは良い企画だったなと思います。時差はあれど世界中の何万人という人が同時にアルバムを聴き返し、メンバーのコメントを見ながら各々が感想や思い出をシェアしあう......すぐ身近にはThe 1975好きな友達はいないけど、世界には自分と同じく熱狂している人がこんなにもたくさんいたんだ!ってわかる、こういうのって音楽好きにとってはたまらなく幸せな瞬間だと思うのです。

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リリース当日、僕はアルバムを聴きながらTwitterを開いて自分の感想を呟いたり、他の方の反応をみていました。ポジティブであれネガティヴであれ、十人十色の感想をリアルタイムで見たり聞いたりすることは本当に楽しく、かつ新しい発見や気づきもたくさん出てきました。『Notes On A Conditional Form』は、この時代ならではの音楽の楽しみ方を最大限に味わう上のに相応しい内容の充実さで、奇しくも大多数の人が「ステイホーム」を余儀なくされているなんとも絶妙なタイミングでリリースされました。誰もが経験したことのない未曾有の危機が続く中で訪れた、あの幸せに満ちたひと時もまさに「歴史的な瞬間」だったのだと本当に思いました。

今こうしてThe 1975というバンドにリアルタイムで熱狂することができて僕は心の底から幸せだし、このワクワクした気持ちは何歳になってもずっと大切にしていきたいなと強く思いました。

ありがとう、The 1975。これからもずっと、ついていきます。


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