「花粉症」のプラクティス #1
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2039年。地球は致死濃度の花粉に覆われている。
人工太陽に照らされた十万都市、横浜ドーム。標準時午前十時。フラワーマンの接近による地下層への避難指示が出てから一時間。空気中の花粉濃度は2%から徐々に上昇を始めた。
車を止めた丘の上にも、一望できる街並みにも人の気配はない。唯一、目の前の建物から聞こえてくる下品な笑い声を除いては。
アンバ耳鼻科。明らかに場違いな木造建築。私は黒いコートのフードを被り、面頬を上げ、遮光ゴーグルを着けて建物に踏み込んだ。
「YMPだ! 出て行け花狂いども!」
公称耳鼻科の内部は、西部劇の酒場そのものだった。
無駄に陽気な音楽と、飲み崩れた男女十人ばかりの胡乱な視線。木の床木の椅子木の丸机にカウンター。いかにもな店内だが、流石にテンガロンハットを被るアホはいない。くたびれたシャツ、汚れた作業着……その姿は疲れ切ったカウボーイにも失礼なほどみすぼらしかった。 【続く】
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