青の世界【シロクマ文芸部】
青写真を初めて見たのは中学校の時だった。
僕が小さい頃は、父が小さな工場を経営していだのだけれど、小学生の時に工場が火事になってしまって、それ以降工場はたたんでしまった。
僕達は工場がなくなると同時に、少し離れた町のアパートに引っ越した。
しかし、何年経っても、昔の家で家族で囲んだテーブルや、冷たいタイルのお風呂、木の床の廊下に、弟と寝た二段ベットなど、意外と良く覚えている。
そんな話を家族としていた時に、父が昔の工場と、その横にあった家の設計図や、完成予想図を見せてくれたのだ。
それは全体が薄い青で、濃い青で線が描かれていた。青写真というらしい。
ところが僕は今、まるでその青写真の中にいるような、青い世界の中にいた。
辺り一面薄い青で、そこに濃い青で縁取られた建物や木や小道がある。
どうなっているんだろう?
と思っていると、ふと大きな目玉が、空の上から覗き込んでいることに気がついた。
そこには、大きな花岡さんの顔があった。
花岡さんは、細い筆に濃い青の絵の具をつけて、僕がいる周りに、山や川を縁取りして行く。
花岡さんが僕に向かって言った。
お家の横には、犬小屋が必要かしら?
綺麗なお花も植えたいわね。
小さな畠も欲しいんだけど、いい?
僕は、
も、もちろんいいよ。君が欲しいならなんでも。
という。
花岡さんは嬉しそうに、僕の周りに、犬小屋ゆお花や、畑を描いていく。
そして僕は気がついた。
これは花岡さんの絵の中だ。
実は中学生の頃のことだ。
美術の時間隣で描いていた花岡さんが、いきなり白い画用紙一面を薄い青色で塗りつぶしたのだ。
一体何をしだすのだろう…
僕は、自分の絵を描くのも忘れて、花岡さんの画用紙に見入ってしまった。
花岡さんは、薄い青になった画用紙に、少し濃い青で、これから描くものの輪郭を簡単に描いた。
その日の課題は、
自分が将来住みたいと思う場所
だったと思う。
未来的な所や、南国の海辺、おしゃれな都会などを描く人が多かったけれど、彼女は、まるでおとぎ話に出てきそうな、山の中の三角屋根の家や、周りに美しい花や木々を描いていった。
花岡さんは、その後たくさんの色を重ねていって、最終的には色とりどりの花々が咲き乱れ、美しい緑の木々が茂る素敵な家の絵が出来上がった。
あの青一色が、こんなに美しい絵になるなんて!
と驚いたことを思い出していた。
今僕がいる世界も、カラフルな美しい世界になって行くのかな?
僕はワクワクしてきた。
花岡さんは、いきなり絵の中の僕を摘み上げると、顔色悪すぎね、と笑って僕に色を塗り始めた。
顔に肌色を塗られて、くすぐったくて、
うわっと顔を拭った。
僕が拭ったのは、顔にかかっていた毛布だった。
夢だったのか…
どうしてそんな夢を見たのかって。
僕は、昨年数年ぶりに会った花岡さんと、何度か会ううちに交際するようになり、先日結婚を申し込んだばかりだった。
僕は彼女と過ごす幸せな生活の青写真を描いた。
きっと実現できるはずだ。
そしていつか、彼女が昔描いたような、花や木に囲まれた素敵な家に住もう!
♯シロクマ文芸部
その昔、画用紙を最初に何か一色で塗りつぶしてから絵を描く
というのを何かで見て、自分もやってみよう!と最初に青一色で塗りつぶしたことがありました。
先日当時の同級生から、あれを見た時は驚いた。すごいと思った!と言われました。
でも実は、どんな絵を描いたかまでは覚えていません。
今回のお題で、昔見た青写真の設計図と同時に、その絵のことを思い出しました。
私は今、将来の青写真を明確に描けていません。
残りは決して長くないけれど、いつまでも青い未来を目指していきたいです。
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