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大きい秋ちゃんと小さい僕(思い出編)

秋ちゃんは、ぼくと同級生だけど、ぼくより随分と体が大きい。

秋ちゃんは、秋ちゃんのママが用意した可愛いスカートや髪飾りには目もくれない。
いつも、お兄ちゃんのお古のズボンを履いて、野山を駆け回っている。

秋ちゃんは、
高い木にも登るし
小川も飛び越えるし
大きなカマキリも、ミミズやトカゲも平気で捕まえる。

その頃僕は、弱虫の臆病者だったけど、秋ちゃんが見せてくれる世界を、とても魅力的に感じていた。

秋ちゃんは、怖がって見ているだけの僕に、木の登り方や、遠くまでジャンプする方法、魚の捕まえ方や、虫の見つけ方、
高いところから飛び降りても足が痛くならない方法なんかも教えてくれた。
だから、僕は秋ちゃんの真似をして、だんだん色んなことができるようになった。

秋ちゃんは、行ったことがない所に行きたがり、やったことがない事をやりたがり、
初めて見たものに興味を示した。

秋ちゃんは、色んな植物や昆虫の名前もよく知っていた。
見たことがないものを見つけると、帰ったらすぐに図鑑で調べるという。
だから、秋ちゃんといると、とっても楽しいんだ。

でも、ママは、秋ちゃんは危ない遊びばかりしているから、一緒に遊ぶのはやめなさいと言う。
それでも僕は秋ちゃんと遊ぶ時のドキドキワクワクした気持ちを、失いたくなかった。

そんなある日、川で魚取りをしていると、秋ちゃんが足をすべらせて川に落ちてしまった。
川は思ったより深く、秋ちゃんの姿がみえなくなってしまった。
僕は、秋ちゃんがこのまま上がってこなかったらどうしよう、と真っ青になった。
川に向かって、
秋ちゃん! 秋ちゃん!
と必死に叫んだ。

その時秋ちゃんが、プハーッと川から顔を出した。
僕はほっとして、泣きそうだったが、それどころではない。
なかなか川から上がれない秋ちゃんを、僕は必死で引っ張った。
秋ちゃんは大きいから重い。
僕まで川に落ちそうだった。
秋ちゃんも必死でよじ登り、なんとか川から引き上げることができた。

安心して泣き出した僕に、秋ちゃんは、
川の底を蹴って上がってきたんだ、
と笑って言った。
でも、秋ちゃんの唇は真っ青だったし、本当は怖かったと思うんだ。
でも、僕を安心させたくて、無理して笑ってる秋ちゃんは、本当にすごいな、と思った。

あきちゃんが、
引っ張り上げてくれてありがとうね!
よっちゃんがいてよかった。
と言った。
言われて僕は気がついた。
いつも助けられてばかりの僕が、初めて秋ちゃんを助けたんだ。
僕はちょっと嬉しくなった。

ズブレ濡れのまま秋ちゃんの家にかえると、秋ちゃんのお母さんが、驚いて何があったのか尋ねた。
秋ちゃんのお母さんは、僕にお礼を言うと、危険なところに行ったらダメだと秋ちゃんを叱った。
でもその顔は、無事に秋ちゃんが帰ってきてホッとしているようだった。

しかし僕のママは違った。

それ以降ママは、僕をスイミングスクールに入れたり、習字やそろばんを習わせたりさせるようになり、僕はだんだん秋ちゃんと遊ぶ時間がなくなった。

習い事に行く時、時々1人で遊んでいる秋ちゃんを見かけた。
秋ちゃんは、習い事に行く僕に、笑顔で
行ってらっしゃーい!頑張ってね!
と明るく手を振った。
僕は、申し訳ないような気持ちで、小さく手を振った。

こうして、小学生になってからは、クラスも違ったこともあり、僕は秋ちゃんと全く喋らなくなってしまった。

でも時々、相変わらず元気一杯の秋ちゃんを遠くに見て、
変わらないな、
って心の中で呟いてクスッと笑った。

秋ちゃんのおかげで、僕も今は結構活動的になったよ。

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