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春の少女 5

ハルカが転校してから1ヶ月くらいした頃、
一通のハガキが届いた。

夢見ヶ丘 87-92
大つか しょう太 さま

裏を見ると、そこには花の絵と共に
ありがとう
と買いてあった。

なんの花だろう?

よく見ると、左下に

イチゴのはな

と書いてある。

そして右下に小さく
ハルカ
と書いてあった。

ハルカからのハガキだった。

ありがとうだなんて…
ボクのせいなのに…

そういえば…
ショウタはふと、ハルカに自分の住所を教えたことを思い出した。

ハガキもらっても、これじゃ返事も書けないよ…

消印を見ると、一関とある。

一関ってどこだろう…

翌日学校の図書室に行って調べていたら、
どうやら岩手県らしい。

遠いところに行ったんだな‥

でも、ハルカからのハガキは嬉しくて
隅から隅まで何度も見て、綺麗なお菓子箱の中に大切にしまった。

2年生が終わった春休み
またハルカからハガキが来た。

今回のハガキは、青い花。
よく見かける花だった。
左下に
ツユクサ
と書いてある。

この花、ツユクサっていうのか…

今回の消印は、旭川だった。
ここは知ってる。
旭川動物園があるところ、北海道だ。

又引っ越したのか…
辛い思いをしてないといいな

ショウタは、ハルカの笑顔を思い出した。
あんな顔して笑っていてほしい

翌年の春は、カタバミ
その翌年は、マーガレット

毎年3月の終わり頃に、ハルカからハガキが届いた。

消印は旭川のままで、ショウタは少しホッとした。

ショウタは、5年生になった。
近頃ハルカの顔を忘れかけている。

そうだ!

ショウタはあの公園に行った。
もしかしたら…

半信半疑ながらも、ショウタは公園の梅の木に両手を当てて、額をコツンと木の幹にあてた。

すると、ハルカと初めて会った日
ハルカと春休みの夕方、おしゃべりした光景が、ありありと翔太の脳裏に映し出された。

すごい
やっぱりハルカちゃんのいうことは本当だったんだ。
やっぱりハルカちゃんは、春の妖精だったんじゃないのかな

ショウタはそんな気がした。

6年生になる前の3月

ハルカからのハガキの絵はタチアオイという花だった。

右下に「遥香」と漢字で書いてる。

ショウタは、驚いた。
ずっと、ハルカのハルは春だと思っていた。
誰に聞いたわけでもなく、そうだと思い込んでいた。
春じゃなかったのか…

そして宛先の名前は、相変わらず
大塚 ショウタ 様
とカタカナだ。

おそらくハルカは、ショウタの名前の漢字を知らないのだろう。

小学校を卒業した年、見事なアマリリスの絵のハガキが届いた。
ハルカちゃん、今も花の絵が好きなんだな。

消印が変わっている
上越市?
新潟県?

北海道と比べたら、なんか近くに来たように感じた。
ハルカちゃんは、どんな中学生姿になっているんだろう…

翌年は、ピンク色のインパチェンスだった。
きっとハルカちゃんはインパチェンスみたいな、可憐な女の子になっているんじゃないかな、
なんて気がした。

そして中学3年になる年の春
珍しく二つの花が描いてある。

タンポポとイヌタデ


二つお花が描いてあるの、珍しいな。

よく見てみると。名前の横に、さらに小さく
携帯電話の番号らしきものが書いてあることに気付いた。

あれから7年
今になって何を話していいのかもわからない。
電話なんて、できないよ

でも、今までも、番号書いてあったのに、気づかなかったのかな?

ショウタは、ハルカからもらったハガキを入れてあるお菓子の箱を取り出して、ちょっとづつずらして、見てみた。

他のハガキには、花の名前とハルカの名前しか買いてなかった。

しかしその時ショウタは思わず

あ!
と声を上げた

イチゴの花
ツユクサ
カタバミ
マーガレット
タチアオイ
アマリリス
インパチェンス
タンポポ
イヌタデ

花の名前の最初の文字を順に読むと
イツカマタアイタイ
と読めたのだ。

ショウタは、部屋から飛び出して、リビングに行き、家の電話から、その番号に電話をした。

コール音が鳴る
ショウタの胸はドクンドクンと大きくなっていた

出ないのかな…
そう思った時

電話がつながった

しかし無言…

ショウタ、大塚ショウタです。

ショウタ君!

ちょっと大人っぽくなったけど、ハルカの声だった。

電話してくれてありがとう。
私のこと、覚えていてくれてありがとう。
これで電話来なかったら、もうハガキ出すのやめようって思っていたの。

それから二人は、色んな話をした。
ハルカは、今は普通の生活ができているとのことだった。

ショウタが、ずっと後悔していた話もした。
するとハルカは笑って言った。

父はもう私があの学校にいるってわかっていたのよ。
ショウタ君の街は、私の母と仲がいい叔母がいる町だったから、どうしていいかわからなくてとりあえず行ったのだけど、やはりそこにいるって想像はつくものね。

登下校は、校門前で待ち伏せされてるかもしれないから、いつも裏門から出入りしていたし、出来るだけ家から出ないようにしたたの

だから、外で遊べないって言ったんだね

うん
今は、ようやく3年前に、色んな人の助けで、母が離婚することができたの。

それでもいつ突然現れるか
電話がきたらどうしようって、ビクビクしてはいるのだけれど…

ねえねえ、それより
ショウタ君、高校行くの?

うん、行くよ、地元の高校
松川東高校だよ

そっか…
難しい高校?
まあまあかな

じゃあ勉強頑張らないとね

それから12月に一度、ハルカから電話がかかってきた。
もうすぐ受験だね。
調子はどう?
頑張ろうね。

そんな感じの短い会話だった。

3月、
無事に高校に合格した僕は、
ハルカちゃんに電話をしてみたが、繋がらなかった。

春休みになったけれど、今年ハガキも来なかった。

なんとなく寂しい気持ちを抱えながら、高校の入学式を迎えた。

先生が全員の名前を呼んでいく。

大塚翔太

はい!

返事をする。

同じ中学から来たのは、翔太を含めて4人しかいなかった。

百田遥香さん

はい!

ハルカか…
ハルカちゃんと同じ名前だな…

後ろの方から声が聞こえてきたので、そっと振り返ってみる

ハルカ…ちゃん?

苗字違うけど…

休み時間になり、もう一度後ろを伺おうとした時、

ショウタくん!

目の前に現れたのは、紛れもなくハルカだった。

ショウタは、びっくりして口をポカンと開けたままフリーズした。

ハルカは、おかしそうに笑いながら、
驚いた?
驚いたよね。
サプライズ大成功‼️

と言って笑った。

ショウタは、これから始まる高校生活が、最高の3年間になると確信した。



ハッピーエンド❤️

今までのお話


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