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サブカル大蔵経724柳澤健『1985年のクラッシュ・ギャルズ』(文藝春秋)

本書は、神話です。そして事実です。

単行本を買っていたのに、文庫も買ってしまいました。ということは、単行本の印象が他の柳澤本よりも印象が薄かったのか?

自分がクラッシュの時代はリアルタイムではないので、柳澤健『1993年の女子プロレス』(双葉社)の方が自分と重ねて読んだかもしれません。

単行本と文庫で共通して付箋を貼った箇所は、L飛鳥の取材拒否での宍倉ジチョーのところでした。

井田真木子を高く評価する『デラックス・プロレス』編集長の宍倉清則は断腸の思いで飛鳥の申し入れを受け入れた。p.145

本書は特に対象相手の心情までかなり踏み込んで書いている感じがしました。それは飛鳥が、宍倉・井田の取材方針に疑問を持った関係と似ているような。実は柳澤健は宍倉の後継者なのか?

編集長解任後、まじめに取り扱うのがタブー化されていたターザン山本を、編集者としてきちんと評価したのも柳澤が嚆矢だったと思います。

ターザンと柳澤で「シン・週刊プロレス」ができないだろうかとも思いました。

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「女であること」「強いこと」「かっこいいこと」が、女子プロレスの中ではひとつになっていた。p.32

 奇跡のひと握り

この世界的な常識が、しかし全日本女子プロレスに限っては通用しない。p.46

 抑え込みという真剣勝負制度

自分は最後に『プロレスじゃないプロレス』をやりたい。p.56

 千種から飛鳥へ、最後の提案。

それでも千種が対戦相手以外の何かを蹴り続けていることは、ひしひしと伝わってきた。p.81

 長与の蹴りは、何を蹴っていたのか。そう思わせる表現世界が他にあるだろうか。

1983年6月17日に旭川総合体育館でデビル雅美&タランチュラ組からWWWAタッグのベルトを奪った堀と大森p.89

 旭川でもベルト移動あったんですね!

だが、自分はすでに50歳を過ぎていた。だからあえてバカに徹して「志生野は年寄りだから千種の高度なプロレスにはついていけない。千種のプロレスはそれほど凄いのだ」ということにした。p.102

 本書の白眉。全員が志生野に騙されていた。

自分たちにさえ結末がわからないのだから、観客にわかるはずがない。p.125

 デビル対千種

アナウンサーもテレビ局も松永兄弟もすべて長与の軍門に下った。p.130

 長与の絶頂と憔悴の飛鳥。その逆転まで描かれるのが本書の醍醐味でもあります。

人は人を愛さない。人は自分の中にある夢だけを愛する。プロレスラー長与千種は少女たちの夢の中に生きる長与千種に敗北した。p.175

 この時の挫折がGAIAとなり、現在では唯一、里村につながるのでしょうか。

本来観客に向けられるべき集中力がプロットを追うことに使われてしまう。1990年代の女子プロレスかどこか機械的でデジタルな雰囲気を持つのはそのためだ。p.226

男女とも、デジタルプロレス、あるいは、ゲームプロレス。故に対抗戦で異彩を放った北斗が輝いたのか。技より殴り合い。

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