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サブカル大蔵経978内田百閒『冥土・旅順入城式』(岩波文庫)

【短夜】
赤ん坊が死んでしまい、狐だと思った女はその為に気絶したp.80

【白子】
私は一人の白子を踏み潰した。p.103

榎本俊二ばりにとにかくすぐ殺す、すぐ死ぬ、踏み潰すして、取り返しのつかないことだと思ったら、再生してるような。でも、やはり、取り返しのつかないような。

随筆と小説、どちらを先に読んだかで、自分にとってのその人の〈原作〉が決まる。小説を先に読んだなら小説家。随筆を先に読んだなら随筆家。私にとって内田百閒は鉄道や家屋や猫や借金の随筆家なので、小説は戸惑いました。悲しみから逃げても、逃げきれない、全ては夢なのか、現実なのか、その境目のないまま、微睡む感じが人間の一生なのだろうか。

種村季弘の解説が嬉しい。

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【山東京伝】
私は、その机の上で、丸薬を揉んだ。p.14

 ショートショートの元祖か。

【件】
その声はたしかに私の生み遺した倅の声に違いない。p.40

 この話、身につまされました。私が父を殺そうとしたのだろうかと。

【疱瘡神】
「そうしたら私も疱瘡になりました」と妻が泣き泣き云った。p.94

 妻が見知らぬ男を看取ろうとする。そして次々と感染していく。

【波止場】
早く早く妻の傍へ行き度いと思う心と裏合わせに、もうどうでもいい様な気がし出した。p.112

 投げやりを肯定していく心理の正直さ。

【冥土】
今一目見ようとしたけれども、もう四、五人の姿がうるんだ様に溶け合っていて、どれが父だか、解らなかった。p.121

 今の私にも生々しい描写です。

【昇天】
「僕は今日カツレツを持って来たんだよ。さめるといけないから、懐の中にしまってあるんだ」p.145

 唯一の食べ物描写。

【山高帽子】
「どうせ死ぬにきまってるんだから、ほうって置けばいい」p.197

 芥川龍之介(がモデルらしき)相手に。

【大尉殺し】
山陽線鴨方駅の待合室に、四、五人の男が腰をかけたり立ち上がったりしている。p.273

 唯一の地名。岡山の鴨方駅。随筆以外でも鉄道描写あるんだ…。

【解説・種村季弘】
決定的な何事かは、到来するにはちがいないが、まだなのであり、それを先取りする「気配」のみがひしひしと濃密に身辺に迫っている。p.369

 それは、ホラーなのかユーモアなのか。兼ね備えたのが百間か。

百間はその後、いわば慢性的にカタストロフの後を生きているのである。次のカタストロフがやってくるあいだでの長い束の間を。p.372

 グレイト余生!百間とみうらじゅん。

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