見出し画像

球種の組み合わせを変更したことで、サイヤング賞候補になりつつあるカイル・ライト

絶好調なカイル・ライト


ブレーブスに所属するカイル・ライトが絶好調である。ここまで7試合に登板して防御率は2.79(FIPは2.47)でFIPはナリーグの投手で3番目の数字である。
今回はライトの好調の秘訣を探していきたい。その前にライトのこれまでのキャリアを振り返ってみましょう。

ライトは17年のドラフトで全体5位指名を受けて入団。18年にデビューすると20年にプチブレイクを果たす。2020年ライトは60試合のシーズンが進むにつれてチームからの信頼を獲得していった。8月は5.11だった防御率も9月は3.91に下げて、ライトはプレーオフで先発ローテのメンバーに入った。そしてマーリンズとの地区シリーズでは第3戦に登板して、6回無失点7奪三振とチームの期待に応えシリーズ突破に導いた。
 
その次のドジャースとのリーグ優勝決定シリーズで何があったかは私が書くまでもないかもしれない。ライトは第3戦に先発して0.2回で7失点を喫したのだ。結局その試合でブレーブスは初回に11失点を喫するという歴史的な敗戦を味わった。シリーズは最終第7戦まで進んだが、ライトが再びマウンドに立つことはなかった。
 
屈辱的な形でシーズンを終えたライトは2021年も一見浮上する気配が見えなかった。この年のライトはMLBでは戦力として見なされず、シーズンの大半をAAAで過ごした。シーズン中のMLBでの先発登板はたったの2試合のみ。その2試合もいずれも5回を持たずマウンドを降りている。2017年のドラフト全体5位でプロ入りしエリート街道を歩んできた選手にとっては、想定外の躓きだったかもしれない。
 
だが苦しんだ1年の最後に驚きの展開が起こった。ライトはワールドシリーズの大一番でマウンドに上がったのだ。ブレーブスが2勝1敗とリードした第4戦。オープナーとして起用されたディラン・リーは制球が不調で1アウトしか取れず降板。そのあとを継いだライトは1回のピンチを乗り切るとその後5回まで1失点と好投。チームは逆転勝ちを収めた。

そして今季は昨年の勢いそのままに好投を続けている。この好投については様々な要因があるのだろう。ブレーブスのスニットカー監督や同僚が自信を持って投げていると語っているように、メンタル面でも今まで以上にタフになっているのだろう。

素人の私から見ても数年前と比べて試合での振舞が変わったように見える。そのようなメンタル面の変化と同じくらいライトは投手として生まれ変わったと言っても過言ではないほど大きな変化を遂げたように見える。今回はそんなライトの投手としての変化を見ていきたい。
 

ストライクゾーンの外で空振りを奪えるようになった


まず今季の活躍の最大の要因はストライクゾーンの外のボール球で多くの空振りを奪えていることだろう。これはライトのストライクゾーンの内と外に分けた空振り率の推移を表したグラフである。ストライクゾーンの内(青色)に限定すると、今季の数値12.65は確かにキャリアベストではある。しかし過去数年と比較して突出した数字ではない。

 

ストライクゾーン内外別のSwing%Miss%

一方でストライクゾーンの外を見てみると、空振り率が跳ね上がっていることが分かる(2020年の9.38ポイントから今季は15.88ポイント)。このようにストライクゾーンの外のいわゆるボール球で空振りを奪えていることが今季のブレイクの理由である。
 

球種の組み合わせを大幅に変更


それではライトはどのようにしてストライクゾーンの外のボールで空振りを奪えるようになったのか。それは球種の組み合わせの変更による。

シーズン別の投球比率

もともとライトはドラフトで指名された当初やMLBデビュー時には、球速の速い4シームとカーブ・スライダーの組み合わせで三振を奪うMLBのエリートタイプの選手のように成長すると見られていた。ブリーチャー・レポートではドラフト時のライトの比較対象としてスティーブン・ストラスバーグを挙げていたことからも彼への期待が伺える。
 
ところがライトはこの投球スタイルを諦めざるを得なくなる。2019年に4シームが全く通用しなくなったからだ。なんと150球を投げて被打率は.480を喫して、Run Valueも+7(プラスが大きければ大きいほど投手にとっては悪い)と散々な数字になった。
 
この反動でライトが増やしたのがシンカーであった。上の球種別投球比率でも、2019年及び2020年にシンカーの割合が上昇し遂に20年は投球比率1位になっていることが分かる(そしてそれと対照的に4シームが減少していった)。
 
そして20年シーズンでシンカーは被打率.211と打者を抑え込んだ。しかしそのシンカーをドジャースとのプレーオフで狙い撃ちされる。0.2回7失点と打ち込まれた中で、安打になったのは5球あった。そのうち4球がシンカーだったのだ。この敗戦を喫して以降ライトは再び自身の球種ミックスを見直すことになる。そんなライトの22年の変化が下記の2つだ。

2022年の変化


 
カーブをメインに、シンカーとスライダーを織り交ぜる(対右打者)
ライトが行った1つ目の変更がこちらだ。投球の基本とされてきた速球ベースをやめて、カーブをメインに据えている(数年前からダルビッシュ有が4シームよりもカッターを多く投げているパターンに近い)。右打者のアウトコースに消えていくカーブを強く意識させた上で、インコースに入ってくるシンカーでアウトを奪う。さらにアウトコースに動くもカーブほどは横に動かないスライダーで相手の意表を突く。この球種ミックスのおかげで、ストライクゾーン外でも打者は手を出してしまい空振りを奪われる。

高めの4シームとよく沈むチェンジアップを主体とする(対左打者)
ライトが行った2つ目の変更がこちら。4シームを高めに集めて打者の視線を上にした所で、チェンジアップを低めに投げて打者の反応を遅らせて空振りを奪っている。下の画像1枚目(2022年)と2枚目(2020年)を比較すると、今季はこれまで以上に4シームを高めに集めていることが分かる。またチェンジアップの垂直方向の変化量は20年の29.0インチから今季は34.7インチと大幅に増加している。高めに釣られて低めの(ゾーン外の)チェンジアップに打者は対応できない。


2022年


2020年

 

チェンジアップの垂直方向の変化量が増加



右打者と左打者に対して異なるアプローチを採用して、相手打線の左右比率に合わせて投球比率が異なるのが今季のライトの大きな特徴といえる。実際それを示すのが以下の登板日別の投球比率だ。シンカーとカーブが連動して動き、4シームとチェンジアップも連動していることが分かる。

登板日別の投球比率


この傾向が崩れたのが3日のメッツ戦と10日のレッドソックス戦だ。この2試合に関してはシンカーとカーブの投球比率が連動していない。2試合で合計被安打16を記録する一方三振は7しか奪えず今季のライトらしからぬ支配力の低い登板になったことで、逆に今季のそれまでの投球の有効性を示したとも言えるだろう。
 
実際その後の15日のパドレス戦ではシンカーとカーブ、4シームとチェンジアップの投球比率の連動を戻してきた。その結果9三振を奪う好投を見せた。結果を再び出したことで、今後も右打者と左打者への異なるアプローチを続けていくだろうというのが筆者の見立てである。

最後に


 
ドラフトで全体5位指名のエリートながらも、投球スタイルの複数回にわたる見直しを経験したライト。今季は好調を維持しており、同じく投球スタイルの大幅な見直しを経たコービン・バーンズ(MIL)のようにサイヤング賞レースで上位に食い込むことを期待したい。

Photo BY:Jeffrey Hyde