Espinas de rosa

画像1 端末の表示を見た瞬間、苦酸っぱいなにかがこみ上げてきた。どうやら、今日はつくづくついてないらしい。そもそも、あんな安請け合いをした自分が悪いのだが、かと言って今日の不運をおとなしく受け止めるほど人間が出来ているわけでもなかった。とりあえず電話をとり、注文品の入荷を告げる若い女店員の声を聞き流す。応答の抑揚はどうしても低く、相手まで引きずられるのは気の毒だったが、それでも『さっき店で聞いたら明後日入荷だったじゃないか』とは返さず抑えた。
画像2 再びコートに袖を通し、クリスマスの雑踏へ飛び込む。買い物客でごった返す夕暮れ時のターミナルは、スマホに魂を奪われしゾンビのパンデミック。そそくさ会計を済ませ、店を出て端末を取り出すと、俺もゾンビの仲間入り。まずは『入荷していたのでいまから向かう』とだけ一報を入れ、ラッピング職人の工房に向かった。ケージの犬に手を振り、つややかなリボンと包装紙、クリスマスギフトを差し出すと、職人は「これ、包材のほうが高くついてるよね」と苦笑い。
画像3 手際よくリボンをかけられる小箱をながめつつ、無邪気なスフィンクスの反応を想像する。イブのデートへ誘った時、天真爛漫な笑顔で「プレゼントはサンタさんが決めるものなの」と、手がかりのない謎解きを仕掛けられたのだ。ただ、同じようなクリスマスの謎掛けに間違った品を差し出し、突っ返されたそれをネットオークションで売り払った記憶は、いまも生々しく疼いている。こうして中身よりラッピングに手間と金をかけるのも、まだ傷がいえていないためだ。
画像4 安物のギフトを手触りの良い緑紙で包み、金糸のリボンは薔薇の形、そしてヒイラギのシールをあしらって完成。職人と犬に別れを告げて支払いを済ませ、店を出るとようやくひと息ついた。ここまでするのは自分のため、けして相手のためではない。あてずっぽの贈り物、謎の答えが間違っていた時、俺を守るため、心の傷を軽くする鎧で、他人を遠ざけるトゲだ。相手の気持ち、望みを推理する楽しみなどまったくない。ただ、もはや憂鬱な祝祭から逃れたかった。

¡Muchas gracias por todo! みんな! ほんとにありがとう!