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El expedición de hijo del torturador 辺境の聖女と拷問人の息子 第7章「流血の午後」

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El expedición de hijo del torturador 辺境の聖女と拷問人の息子 第6章「決闘の朝」を読む

素晴らしい乗馬技術を誇るチャロたちがトウモロコシ畑で戦う

 エスコルタの男たちはいかにも戦いに慣れていそうな髭面で、鋸歯魚の庭を取り仕切る自警団(チャロ)からよりすぐった手練ぞろいと聖女が薄い胸を張ったのも、ただのはったりではなかったようだ。そんな男たちが乗った馬に囲まれて、メルセデスたち三人は足早に歩き続けていた。
 メルセデスとヘルトルーデスは歩きなれていたし、少々の早足でも全く苦にならなかった。それどころか、荷物は馬に乗せてしまい、手には銃とマチェーテだけだったから、むしろ楽なぐらいだ。ただ、たまに自転車で遠出することはあっても、あまり歩くことのないエル・イーホはいささか遅れ気味で、気がつけばすっかり息も上がっている。見かねたヘルトルーデスが「坊ちゃまだけでも馬に乗せていただけませんか?」とエスコルタのへフェ(おかしら)に頼み込んだが、それは慇懃に拒まれ、代わりに坂の手前で小休止することとなった。
 ただ、小休止と言っても腰を下ろしたのはエル・イーホのみで、エスコルタのチャロたちは誰ひとり馬から降りず、メルセデスとヘルトルーデスも立ったまま、それぞれあたりを警戒していた。へフェは手近の二騎を下馬させて坂の下へ斥候に出すと、別に数騎を後方へ展開させる。
 それにしても、やけに戦慣れしてるなと、メルセデスは馬上のへフェを見上げながら思う。そうこうしている間に斥候が戻り、坂をやや下ったあたりに数名から七~八名が潜んでいるが、いずれも徒歩と思われる。ただし、斜面を下る方に向かって左側のトウモロコシ畑には馬が数頭ほど潜んでいると、簡潔に報告する。
 へフェは細い葉巻をふかしつけながら「正面の歩兵は囮だろうが、畑の馬乗りに手こずってると挟まれるな。まぁ、そうは言っても先に畑をやるか」と脇のチャロにぶつくさ言い、そしてメルセデスとヘルトルーデスを手招きする。
「ラス・ソルダデラス(女兵士さんたち)、いまからあそこのトウモロコシ畑に潜む馬乗りへ突っかける。その間、ここでおとなしくしててくれ。なぁに、連中が馬へまたがるころには、こっちの銃口が奴らの頭にくっついてるさ。ただ、坂の下には別に歩きの連中が何人かいる。もし、そいつらがコソコソやってきたら、遠慮なくぶち殺してくれよ」
「その後は?」
 へフェのあまりにざっくばらんな物言いに、ヘルトルーデスは少し不思議そうな顔でたずねた。
「奴らが全員くたばったと思ったら、そこの馬で渡し場まで行ってください。わしらにかまうこたぁざいません。まぁまぁ、生きてれば坂の下までお見送りしますよ。べっぴんさんの女兵士さん(ラス グアパス ソルダデラス)」
「そんなに危険な相手?」
 やや早口気味にたずねたメルセデスに、へフェは「いやいや、連中を始末するのは雌鳥が卵を生むより簡単でさ。ただ、あそこには知り合いがいそうなんでね」と薄笑いを浮かべながらこたえ、胴間声で「行くぞ(バモス)!」と馬の腹を蹴り、チャロたちと突進していった。
 エスコルタと言っても実態はお目付け役、ことと次第では一戦交えることすら覚悟していたメルセデスは、本当に護衛だったことにいささか拍子抜けしながらも、正直なところほっとしていた。もちろん、これからはじまる戦いの行く末によっては、コルトの手勢と戦うことになるのだが、多少でも交戦状況を選ぶ余地や、さらにはほんのわずかでも戦いを回避できるかもしれない可能性が生まれたことは、素直によろこばしかった。
「ルティータ、行くよ! 若もいっしょに」
 周辺をうかがいながら、同時に自らの身を隠せる場所を求め、メルセデスとヘルトルーデスそしてエル・イーホは坂の頂上付近の用水路を目指す。あらかじめメルセデスが目をつけていたとおり、そこは坂の上下を同時に見渡せる場所にある溝で、なおかつかがめばすっかり身を隠せるだけの深さもあった。
 幸いにも水は少なく、濁ってもいなければ、さほど冷たくもない。長身のエル・イーホには体を丸めて完全に身を隠すよう指示すると、メルセデスはヘルトルーデスとならんで膝をつき、ゆっくりと戦いを観察し始めた。
 エスコルタのチャロたちは十数騎が横一線にならび、ちょうどトローテ(速歩)からメディオ・ガローペ(駈歩)へと馬足を上げるところだった。きれいな横隊を形成していたチャロたちは、頭の言葉とは裏腹に坂下の歩兵へ向かっていた。下り坂なのに、よくもまぁトローテで隊列を保てるものだと、メルセデスが感心したところに、チャロたちは馬足を上げつつ右翼側の十騎ほどがくるりとメディア・ピルーエタ(後肢旋回)を決めて向きを変えながら、さっと二手に別れたのだ。
 最右翼に位置していたへフェがこんどは先頭になり、新たな隊列を形成したチャロたちは、雁行しつつ坂を登ってトウモロコシ畑へ突進し始める。個々の騎手が乗り手として優れているばかりではなく、集団としてこれほどまでに統制の取れた動きを見せるとは!
 粗野な風貌とぶっきらぼうなもの言いから、へフェをいささか軽んじていたメルセデスは、内心で自らの不明を恥じていた。

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