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写真をコレクションするということ

昨年10月から今年の2月にかけて、東京国立近代美術館のコレクション展で、松本路子の写真作品が展示されました。「Portraits 女性アーティストの肖像」シリーズの収蔵作品のうち、14点が一つの部屋にまとめて展示されるという、良い機会を得ることができました。
 
展示が終了して間もなく、スイス人のコレクターからメールが届きました。近代美術館の展示を見たが、作品を購入することは可能か、というお問い合わせでした。出張で東京に滞在中ということで、ホテルで会うことになりました。
 
写真選びのために11×14インチのプリントなら持参できると告げると、滞在中のホテルの会議室を借りて、黒いテーブルクロスを用意して待機していました。展示を見たのは彼だけでしたが、選ぶのはその日スイスから来日したという連れ合いの女性と一緒でした。
 
彼らの話で何よりも嬉しかったのは、その時南フランスに建築中の夏の家に飾る作品を探しているということでした。コレクションするだけでなく、居間に飾りたいというのです。シリアスなアーティスト・ポートレイトを居間に飾るという話から、常々思っている写真をコレクションすることについて綴ってみたいと思いました。
 
 
写真作品をコレクターにプレゼンするにあたり、ギャラリーの担当者に相談しましたが、間に入って英語で交渉できる人物がいないということで、作者(松本)自らがプレゼンせざるを得ない状況でした。
 
急遽プライスリストを作成し、当日に臨みました。大きなテーブルに第一段階のセレクション写真を並べ、夫妻が相談して選んだのは5点でした。作品サイズは家の壁のサイズを測ってから決定ということで、後ほどメールで連絡という結果に、一抹の不安があったことも事実です。
 
結果として16×20インチの作品4点に決まりました。代金が振り込まれ、作品を送った先は、南フランスの額縁屋さん。そこで額装したものが、彼らの家に無事届けられました。
 
写真のコレクションについては、以前から関心がありました。80年代、頻繁に滞在していたニューヨークで、サザビーズやクリスティーズの写真部門のオークションに何度か出かけました。まず内覧会で世界的に知られた写真家のオリジナルプリントを見ることが出来るのが眼福でした。それらの作品がどのくらいの価格で競り落とされるか、興味津々。当時は驚くほど安い価格で競り落とされていましたが、撮影に出かけている身としては、そちらの費用が優先ですので、見るだけに留めていました。今思うとちょっと残念な気もしますが。
 
当時ニューヨークやヨーロッパで個人宅を訪れると、部屋にはよく写真家の作品が飾られていました。驚かされたのは、インテリアとして心地よい写真ばかりではなく、かなりシリアスなドキュメンタリー写真が壁に掛かっていたことです。日本との写真に対する意識の違いを感じました。
 
またあるコレクターから写真のコレクションを見せてもらう機会がありました。
その中の1枚、藤田嗣治のポートレイトに見入っていると「気に入ったのなら、あなたの写真と交換しよう、ただし2枚と」と言われました。もちろん二つ返事で了承しました。そのポートレイトはイギリスのアイダ・カーという女性写真家の作品だということを後になって知りました。写真はずっと事務所の壁にかけています。来訪者から松本の写真か、と尋ねられることもありますが、撮影は私の生まれた年のものです。

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