けふこ月報202308-09

月報です。

なんと夏休みの8月後半が疫病で消滅してしまい、病み上がりのまま通常業務が戻ってきました。
横臥人ぎみですが、iPhoneやiPad miniで文章を書いています。
それはそうと積み残し解消のための秋休みがほしいです。

登壇情報

パブリック・ヒストリー研究会第15回研究会(8月26日・上智大学)

「過去を生まれ変わらせる可能性─歴史系マンガ作品の製作/読解にみる歴史実践─」のシンポジストで『刀剣乱舞』メディアミックスとその受容についてお話ししました。ありがとうございました。
今回の演題の関連企画で、ゆにここカルチャースクールで歴史叙述と歴史創作の配信講座「創作する人のための歴史叙述と歴史創作」をします。4回シリーズで、初回は9月27日からです。ぜひお運び下さい。


ギリシャ哲学セミナー(9月9日・早稻田大学戸山キャンパス)

お招きいただきありがとうございました。
3世紀から4世紀の新プラトン主義者の宗教観についてお話ししました。
ガチの形而上学者ではない私になぜ……?と思っていましたが、楽しんでいただけたようでなによりです。
よいコメントもいただき、ひさびさに哲学者の呑み会にもまいりました。
良い時間をいただき、感謝しています。
こちらは文章化される予定です。またお知らせいたします。


これからの予定

10月28日から弥生神社講座が再開されます。
折口信夫の短歌をゆるゆる読みましょう。よろしくお願いいたします。
京都芸大の秋期通信講座(集中講義)もよろしくお願いいたします。
ゆにここカルチャースクールの講座(前述)もよろしくお願いいたします。
この次の研究集会登壇は12月第2週と第3週の週末です。がんばりましょう。

寄稿情報

武田将明・樫原辰郎・川本直編『吉田健一に就て』(国書刊行会・10月25日発売開始予定)に参加させていただきました。
吉田健一と澁澤龍彦の18世紀の文人を参照項とする「公共的知識人」としての側面と西洋古典への沈潜について書きました。
500頁を超える鈍器本ときいています。どうぞよろしくお願いします。
書誌はこちら。

https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336075376/


見た舞台と映画

『ヴァチカンのエクソシスト』(ジュリアス・エイヴァリー監督、2023年)/日比谷TOHOシネマズ、8月1日

実在のカトリック司祭・エクソシスト、ガブリエーレ・アモルト神父(男子パウロ会、1925-2016)の活動を着想源とするホーンテッドマンションものの映画です。アメリカに移民したスペイン出身の男性が先祖から受け継いで妻子に残した中世後期に遡るスペイン某地方の修道院が実はいわくつきの館で、その修復中に起きた憑依事件を解決するためにアモルト神父(ラッセル・クロウ)と地元の新人司祭トマース・エスキベル神父(ダニエル・ゾヴァット)が現地に乗り込み……というお話。
娯楽作品としてよくできています。古めかしい想像力と新しい想像力がないまぜの時代の描写は様式的ですし、二人の心の迷いが見せる「悪魔」とのクリプタでのラストバトルや「スペインの異端審問」表象は紋切り型な感じもしますが、フィクションと現実の腑分けができて虚実のあわいが楽しめる方ならきっと楽しめます。イエズス会所属のカトリック司祭を監修につけて、お説教臭くならずにユーモアを添えて祈りの重要性をさりげなく織り込んでくるところもウェルメイドです。
アモルト神父を演じるラッセル・クロウはイタリア語堪能、フェラーリのスクーターにのる神父を好演していました。
舞台は1980年代後半なのですが、「教皇」(フランコ・ネロ)がヨハネ・パウロ二世に全然似ていないのはご愛嬌でしょう。
ホラーが苦手な方は感想会やウォッチパーティができる環境でご覧になることを勧めます。配信もはじまりました。

田中昇神父(カトリック東京教区司祭、カトリック北町教会・豊島教会主任司祭)の本作解説インタビューが出色です。ぜひ。

島村奈津さんの『エクソシストとの対話』も名著です(電子版あります)。実在のアモルト神父のインタビューもあります。
こちらで予習復習なさることをおすすめします。

アンサンブル サクレ ミュジーク(Ensemble Sacrée Musique)
Concert #1.5
(豊洲文化センター(豊洲シビックセンターホール)、8月10日)

京大文学部言語学科出身でフランスに学んだバリトン歌手・指揮者、浜田広志さん率いる室内合唱団。サクレ・ミュジークはここでは「たいそうな音楽」の意。
前半は
フォーレ
《マドリガル》《パヴァーヌ》
ドビュッシー
《シャルル・ドルレアンの3つのシャンソン》
《3つのフランスの歌》(メゾソプラノ: 小阪 亜矢子)
《フランソワ・ヴィヨンの3つのバラード》(バリトン: 浜田 広志)
後半は
グレゴリオ聖歌《Salve Regina》
ゲレーロ《Salve regina》
タンギー《Salve Regina》
ジェズアルド《Ave Regina Coelorum》《Ave Dulcissima Maria》
プーランク《クリスマスのための4つのモテット》

疫病で中止になった回のプログラムを増強しての再演。
私の高校以来の友人でメゾソプラノ歌手の小阪亜矢子さんとその友・浜田広志さんが出ていれば間違いなく楽しいことがおきるので行ってきました。
知的な仕掛けと腕ききの歌い手たちによるオーガニックな演奏がぴったりと合った良い演奏会でした。フランス語とラテン語が明瞭に歌詞として立ってきて、中世後期の詩の哀愁を伝えます。ソプラノとアルトの歌い方がとてもかっこいい。男声がソプラノとアルトをじゃましない。安心して聴けます。
中世後期の詩に作曲したフランス近現代曲とルネサンス宗教曲とプーランクのクリスマス・モテットで体感温度が下がるのもすてきです。現代曲の民族音楽と接合する《サルヴェ・レジナ》とルネサンス宗教曲がすらりとつながる。
真夏の石造りの礼拝堂で聴く教会音楽のようでした。欧州がなつかしい。
プーランクのクリスマス・モテットはやはりよい曲です。
会場の豊洲シビックホールは室内楽・ピアノ・声楽・合唱には使いやすいホール。舞台側の鎧戸を開ければガラス窓の向こうの東京湾が借景となる作りで、夜にはネオンサインがまるで星空のようです。
夏の昼間は鎧戸を開けると暑いらしいですが、冬はどうでしょう。
続編を期待します。

・『リーディングドラマ ロミオとジュリエット』
(作:ウィリアム・シェイクスピア、翻訳:松岡和子、構成:木村美月、構成・演出:荒井遼)
『テンダー・シング』(原作:ウィリアム・シェイクスピア、作:ベン・パワー、翻訳監修:松岡和子、演出:荒井遼)
(あうるすぽっと、8月12日)

観劇の友と春学期慰労会をかねて見に行きました。
前半の『ロミオとジュリエット』。
松岡和子訳を使用し、『テンダー・シング』でも用いられる台詞をしっかり拾った台本で、木村美月さん・荒井遼さんによる構成がすばらしい。朗読だけで「純愛」に突っ走る二人の生き急ぐ速さが明暗ゆたかに伝わります。
梅津瑞樹さん(われらが刀ステの山姥切長義さん)の明晰でNTにも行けそうなロミオと大西桃香さんのふんわりと桃の花のように可憐でおとなっぽくいのちのはかなさも感じさせるジュリエット。さすが「虚構の劇団」と2.5次元舞台から頭角を現した人と、AKBの精鋭から頭角を現した人です。安心して物語を堪能しました。お二人のこれからの活躍がたいへん楽しみです。
周囲の人々を演じる先輩俳優お二人がすばらしい。町田マリーさん演じる老獪さと愛情あいなかばする乳母のたたずまいも、山内森広さん演じる温厚で良い人そうなパリスや人の心の機微の解る懐の深いロレンス神父の佇まいも、仇敵同士の両家の人々やロミオの友人たちも手触りゆたかに立ち上がる。突っ走る二人と交差する大人たちのまなざしを伝えて印象的です。
音楽は一台のドラムセットのみ、真紅のドレスをまとった演出助手の小見山千里さんの演奏が鮮烈でした。

梅津瑞樹さん、ぜひ古典ギリシャ・ローマ演劇にもお出になってください。
梅津さんならいろいろな役がおできになるはず。
ブレケケケックスコアックスコアックス。

後半の『テンダー・シング』は再演です。かわいらしい老夫婦(大森博史・土居裕子)が『ロミオとジュリエット』のばらばらにされた台詞でやりとりしながら暮らしているのですが、妻がやがて弱って老老介護の生活にはいり、とうとう『ロミオとジュリエット』のように心中する話です。
若返った姿でふたりがあらわれ、「巡礼の挨拶」のロマンティックな場面のやりとりを再現するラストシーンは甘美で輝かしい。ほんとうに二人は老境のロミオとジュリエットなのか、あるいは老いて自分がジュリエットだと思い込んでいる妻をロミオに心を託す夫が支える物語なのか、見ているうちに言葉の鏡の迷宮に彷徨う心地になってきます。ベン・パワーはやはり才人です。さきに『ロミオとジュリエット』を見た(聴いた)ので、死んだ子を嘆く乳母の台詞を老境の「ジュリエット」が繰り返していたり、二人が何度も愛を確かめ合う台詞がじつはお互いの台詞を交換し合っていたりもするのだと知るといたましさがいや増しになります。
池宮城直美さんによる美術と藤田赤目さんによる音響は波ざわめくイングランドの海辺の邸宅を連想させ、松沢延拓さん・松尾祐一郎さんによるプロジェクションマッピングと横原由佑さんによる照明も効果的でした。
『ロミオとジュリエット』作中のせりふの文字が明滅するところで思わず涙腺が決壊しそうになりました。
よき舞台でした。ベン・パワーの作品はすばらしいのでまたぜひ紹介してくださることを期待しています。

NTLive 『ベスト・オブ・エネミーズ』(ジェームズ・グレアム作、ジェレミー・ヘリン演出)/9月13日、シネリーブル池袋

消滅した夏休みお疲れ様会をかねて観劇友達と急遽見に行きました。
まぎれもない傑作です。

1968年、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件後のアメリカ大統領選挙戦で、視聴率獲得のためにABCが企画放送した討論番組の話です。
共和党側に立って雑誌『ナショナル・レビュー』を創刊した保守論客ウィリアム・バックリー・ジュニア(デイヴィッド・ヘアウッド)とその論敵で民主党側に立つ作家ゴア・ヴィダル(ザカリー・クイント)を起用して大統領予備選挙の地のスタジオで激論の限りを尽くさせます。
両者の激論は評判を呼んで視聴率はうなぎ登り。
政治の大転換点でぬけぬけと「保守こそが庶民の味方」(ほんとかな〜)を語ってやまないウィリアム・バックリー・ジュニア役に黒人俳優を起用して、白人の妻に叱咤激励されながら可能な限り知的でリスペクタブルなふるまいを貫こうとする姿をきわだたせる試みが深く印象に残ります。
時に相手の意見を遮り、エリート主義と批判されても民の側にたつものとなろうとぬけぬけと自説をとうとうと語り、一見突飛な話しぶりに見えても筋の通った意見をじゅんじゅんと純情に説き続け、罵倒も辞さないゴア・ヴィダルの姿も負けず劣らず強烈です。男性パートナーと書生に励まされて壇上に上がる姿もウィリアム・バックリー・ジュニアとは対照的。
二人それぞれに一目でアメリカの知識人に見えるメイクと衣裳、間大西洋アクセント。
それすらも笑いのフックになるから不思議です。
デモ隊のアンサンブルも、60年代建築のスタジオを連想させるセットや、ナム・ジュン・パイクのテレビジョンセットインスタレーションを連想させるプロジェクションマッピングもあの混乱の時代のにおいを伝えます。ゴア・ヴィダルも集うパーリィに来るアンディ・ウォーホルや政治集会で《星条旗よ永遠なれ》を歌うアレサ・フランクリンも登場します。
ゴア・ヴィダルがなぜ『マイラ』や『都市と柱』や『大預言者カルキ』や『ジュリアン』を書いたのか。
それがわかるように作ってあります。
劇中で『マイラ』のジェンダーにかかわる一節がネオンピンクの照明とともにけだるい口調で朗読されるとウィリアム・F・バックリー・ジュニアがそれはそれは厭そうな顔をするし、「これを読んで敵を知るのよ」と妻から『マイラ』を手渡されると穢らわしいものを見るような目をします。
60年代カルチャーの自由の側に立つ人と、自由なはずの60年代カルチャーへの保守派の嫌悪が対置されて、「庶民の味方」のはずの民主党側に立つシカゴ市長の横暴な暴動対策に接して動揺したゴア・ヴィダルとウィリアム・F・バックリー・ジュニアが罵り合う場面、そして後段のそれぞれの愛について語るフィクション場面はまっすぐつながります(この場面はフィリップ・グラス『浜辺のアインシュタイン』の幕切れの「やっぱり、愛だよ、愛しかないんだよ」も思い出される)。
真摯に同時代を論じ合うはずの場が、ショウアップされたTV討論になり、重ねた言葉もむなしくなる。それでも言葉を発さずにはいられない。そのなまなましい場に立ち会うような思いがして息詰まるようで、挙措やことばにこめられた笑いのフックのおかげで完走できた2時間45分でした。

傑作です。まぎれもない傑作です。ぜひご覧になってください。


・『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』Day1(監督:錦織博・山本健介、脚本・都志見文太、キャラクター原案・種村有菜、2023年)/立川シネマシティTHEATER2、8月29日


『劇場版アイドリッシュセブン』(ムビナナ)Day1の応援上映を短歌のお友達に勧められて一緒に見ました。

17歳から22歳のインディーズシンガーでユニットを組んでデビューさせ、ゆくゆくは自立したアーティストに育てるミッションとして新規事業を立ち上げた音楽事務所を舞台に展開される音楽ゲームが原作です。
アニメーションの映像技術と清潔感のあるキャラクターデザインとモーションキャプチャーと声優の鍛えられた技芸を結集して作中のボーイズグループのジョイントライヴを考えられるかぎり生身の人間でも実現可能な最高の形態で見せようという心意気を感じました。
全員歌が上手でモーションアクターの踊りもみごとで映像作品としてノイズがない。タイトルロールグループIDOLiSH7のメンバーが全員それぞれにかわいらしい。ライバルグループ(TRIGGERとRe:valeとŹOOĻ)それぞれの魅力の描き分けも上手です。
IDOLiSH7のセンターで歌う華のある赤毛の美人(七瀬陸さん(声・小野賢章さん))とそのかたわらの深い声の清楚な黒髪美人(和泉一織さん(声・増田俊樹さん)に心を掴まれて帰ってきました。
陸さんのお声は人気絶頂のボーイズバンドのセンターを張る役にふさわしい華のある爽やかな歌声で驚きました。
増田俊樹さん演じる和泉一織さんのお声は深みのあるテノールでまた驚きました。発声とディクションがきれい。
小野賢章さんの演技には『刀剣乱舞』のきらきらしい幸福の使者・物吉貞宗くんや「ポンペイ展」イヤフォンガイドの富裕な商人の柔和な息子役でも接してきましたし、増田さんの演技には『刀剣乱舞』の飄々と純情可憐な加州清光くんで親しんできました。物吉くん、こんなに歌える子だったのか、あの黒髪美人は加州清光くんの声のひとだったか、という驚きがあります。加州清光くんも別のタイプの黒髪美人だけれど。
斉藤壮馬さんがTRIGGERのセンター歌手・九条天(七瀬陸さんの生き別れの兄)役で出ています。天さんの見かけはプラチナ色の髪のはかなげ美人で、まさに『刀剣乱舞』で斉藤さんが演じている鶴丸国永の係累みたいな感じなのですが、『刀剣乱舞』の鶴丸国永と違って、「ドーンと行ってバーンだ!」」「どうだ驚いたか!」とか言ったりしません。『刀剣乱舞』で斉藤さんが演じているもう一役の鯰尾藤四郎のように「きらいなやつには馬糞投げる」とか言ったりもしません。川本直さんの小説『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』のジュリアン・バトラーを彷彿とさせる超然と辛辣で時々愛敬も見せるキャラクターですが、芸事にはきわめて真摯です。
『刀剣乱舞』の水心子正秀役で折り目正しいひたむき青年演技の様式美を見せる阿部敦さんは、音楽に夢中になりすぎて実家を勘当された大企業御曹司の逢坂壮五さんの声を担当しています。イメージカラーの紫と美しいプラチナ色の髪と折り目正しい品の良い青年演技(おさけを呑むとお坊ちゃんの酔い方をする)と見事なお歌が強く印象に残ります。
水心子くんこんなに歌えたんですね。ぜひ刀ミュのうたのうまい水心子くん(小西成弥さん)と夢の水心子双騎出陣をなさっていただきたい。

ああ面白かった。できればもう一度応援上映で見たいです。

アイナナ(ゲーム『アイドリッシュセブン』)という素敵の沼


はームビナナ楽しかった、きらっきら、と言っていたら映画に誘ってくださったお友達から『アイドリッシュセブン』のゲーム本体を勧められました。
「ゲームに全部背景がつまっているのでムビナナをより深く理解するにはぜひゲームをしましょう。いまの創作の世界を考える上でだいじなことがぜんぶ詰まっている」
iPhoneにアプリをダウンロードしました。
開始10日でレベル50の手前まできました。
ストーリーは第2部の9話まで読みました。
声優とデザインと映像技術の技芸と充実した脚本の妙を味わえる非常によく錬られた作品です。
「ライブ」でメンバーの経験値を上げます。「ライブ」とは音ゲー(リズム打ちセクション)です。作中ボーイズバンドの作品にあわせてリズム打ちをします。音楽と歌詞がしっかりしていて、違和感を感じずにリズム打ちに集中できます。
ストーリー部分では現在の若手アーティストをとりまくもろもろの困難に切磋琢磨してぶつかってゆくメンバーの姿が巧みに描かれています。
「アイドル」とそこに関わる人をひとりひとり人間として扱う都志見文太さんの脚本がよい。「ラビットチャット」(LINE状の作中世界のメッセージアプリ)でのテキストメッセージによるサイドストーリーを含む登場人物の会話にも作中年齢相応のリアリティがあります。
倫理への配慮や社会派要素の導入も無理がなく、音楽ビルドゥングスロマンとしても秀作です。IDOLiSH7の所属事務所(小鳥遊事務所)の経営方針が所属アーティストがよいパフォーマンスをまっとうするために考え抜かれており、健全で教育的なのも好感が持てます(最初に「マネージャーは君たちのおかあさんじゃないよ」と社員がメンバーに釘を刺す場面も。メンバーに支給するお弁当を清貧にするほどお金がないのもリアリティがある)。
人前に立つ仕事を目指す男子の健全なマスキュリニティの獲得とそれをはばむもの、ルッキズムと「誘惑者」であることを要請されること、高圧的な父親世代の職業観・経営観との対決、兄弟関係と疑似兄弟関係と友情と男子の相互ケア、子どもの貧困とヤングケアラー問題、境界線に踏み込んでくるファンの存在などもさりげなく織り込まれており、いまの若手芸能者育成をめぐる社会環境や「推し活」の現在をも問う力があります。

IDOLiSH7メンバーでは、それぞれの聡明さと資質を開花させてゆく洋菓子屋の息子の和泉兄弟(兄の三月くん(声・代永翼さん:すばらしいポップカウンターテナーだ)と弟の一織さん)と、逢坂壮五さんに親近感を覚えました。聡明で才知ある青年のリアリティを誠実に描いているのも好感が持てます。
向日性の人でふわふわのぬいぐるみのように愛くるしい和泉兄の三月くんがしだいに名司会者の素質をあらわすさまも、兄の夢を追ってともにオーディションを受けた清廉なオールラウンダー型秀才の一織さんが病弱天才肌の七瀬陸さんと出会って芸道に覚醒して切磋琢磨しあうさまも、それぞれに純真で愛おしい。
ストリート出身の天才肌ダンサー、四葉環くん(声・KENNさん)はやれば出来る子。彼もおうたうまいですね。
みんなにおもしろい別名をつけるのも(『映画刀剣乱舞』のへし切長谷部の仮のあるじ・実弦ちゃんレベルに)うまい。
王様プリンなるおやつが彼の好物だそうで、ぜひそのうちコラボメニューかなにかで食べてみたいものです。
IDOLiSH7には作中世界にのみ存在する北欧某国の第二王子・六弥ナギさん(声・江口拓弥さん)と、名優の隠し子で父親に復讐するために芸能の世界に入ったと嘯く飄々とした風体の「おにいさん」こと二階堂大和さん(声・白井悠介さん)もいます。
全員親族の七光りに頼らず、みずからの資質を磨いて切磋琢磨して世に打って出ようとするさまが眩しい。
みんなえらいな。
みんな、美しい魂のまま生きて、と願ってやみません。

『アイドリッシュセブン』は「ライブ」をしてストーリーを先に進めるゲームなので、刀剣乱舞よりだいぶ手がかかりますし、集中力を要します。iPhoneアプリでは文字が小さく、マダムの老眼ではストーリーを読み続けるのがつらい時間帯がある。
先は長そうですが楽しめそうです。

追記1 アイナナという素敵の沼 いおりちゃん語録


ところで和泉一織さんをiPhoneアプリの「アイドリッシュセブン」ホーム画面で待機させておくと「私も準備できています。ライブに行きましょう」「少し勉強してから寝ます」とか言うのです(文字でも表示がでます)。
ログインヴォイスで登場すると「私についてきてください」と語りかけてきます。
「少し勉強してから寝ます」って言われると、「そうね私も少し勉強してから寝ます、おやすみ一織さん」って言いたくなります。
ありえたかもしれない人生のどこかの学寮でゆきあったフラットメイトみたいですね。
作中世界では17歳という設定ですが、ほんとうにあなた17歳ですか。
エウダイモニオスですね。
一織さんをチームのセンターに据えて「ライブ会場」(音ゲー会場)に行くと「いつも通りにやれば大丈夫です。行きましょう」と励ましてくれます。
「いつも通りにやれば大丈夫です。行きましょう」ってなかなかニンゲン思っていても言えませんね。
大事な報告のときや難しい原稿と翻訳や仕事に行きたくない気分のときにも思い出すことにします。
リズム打ちをすべて正確にこなすと誉めてくれます。
システムだとわかっていても嬉しい。
ありがとう一織さん。
増田俊樹さんと都志見文太さん、種村有菜さん、アイドリッシュセブン運営のみなさま、すてきな作品と作中人物をありがとうございます。

一織さん語録をつくったらきっとすてきかわいいでしょう。

映画とゲームを勧めてくださったお友達からは都志見文太さん脚本のゲーム『魔法使いの約束』も勧められました。シノプシスを読んだところ秀作の予感がしますが、本丸のお世話と一織さんたちのお世話(むしろ一織さんたちにお世話されているのかもしれない)でいまはいっぱいです。
そのうち考えてみます。

追記2 秋の観劇予定

とりあえずいまのところ決まっているのはBunkamuraの『ガラスの動物園/消えなさいローラ』と、刀ミュ『真剣乱舞祭 すえひろがり』のライビュです。次に見る映画は『ロスト・キング』の予定です。
新国立劇場の『尺には尺を』『終わりよければすべてよし』も見たいところです。世田谷パブリックシアターの『無駄な抵抗』(前川知大作・演出)『メディア/イアソン』(フジノサツコ作、森新太郎演出)はギリシア悲劇アダプテーションものなのでぜひ見たい。
鷹之資さんが見たいので3等席で良いからどこかで彼の出る歌舞伎が見たい。マハーバーラタかな。お財布と相談ですね。


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