時渡りの手記

こちらは1話完結の話となっております。


これは、とある手記を見つけた時の出来事。


 久しぶりに纏まった時間を取れた私は、長年放置されていた実家の物置を整理する事に。

 汚れてもいい服に着替えマスクをつけた私はガラリッとドアを開け中に足を踏み入れた。

 地を足で踏む事にモワリと埃が舞い思わす眉間に皺が寄る。

 先ずは換気だ!と中途半端に開いていたドアを全開にし、窓も全部開け放った。

 キラリと埃が外から差し込む光によって輝く光景には目もくれずに作業へと取り掛かる。


 汚れが酷いものや要らないものはどんどん袋に投げ入れ、自分では判断つかないものは専用の箱に入れていく。物置と言ってもそれほど大きくない部屋の中をあらかた捌いていくと、奥の方で大事そうに仕舞われていた1冊の本を見つけた。

 保存状態の良いそれに、本を読むのが苦手な私は何故か強い興味を引かれ気が付いたらそれを持って自室へと戻っていたのだ。

 マスクをゴミ箱に捨て部屋着に着替えた私はベットに横になりながら見つけた本を開く。


 真っ先に目に飛び込んできたのは恐らく日付が書いてあったのであろう滲んだ数字と、1つの彗星がこの星に飛んできたという文であった。

 てっきり文庫本だと思っていたがどうやらこれは誰かの手書きのものらしい。

 日記であろうか…と思いながらも次へと目を滑らせる。

 彗星を観測した日に、ここ日本では滅多に見ることの出来ないオーロラが多くの場所で見られたと記されている。その日は奇跡の日だと歴史に刻まれ多くの報道陣に取り上げられたらしい。

 お祭り騒ぎが続く平和な日の様子が語られる文にクスリッと笑っていたが、読み進めていくうちに雲行きが怪しくなっていった。


『今年は何時もよりも異常気象が多い、温暖化のせいだろうか。』


 最初はこういった少しの違和感。だが、日が進むにつれそれは明確なものとなって現れた。

 見るもおぞましい姿をした動物が多く発見されるようになり、いつしかそれは人間にも現れ始めたのだ。

 混乱と恐怖が日常を覆っていく様子に思わず本を持つ手に力が入りゴクリと唾を飲み込む。


そこからはもう怒涛の勢いであった。


 毎日を何とか生き残り、中には血であろうか。薄くだが赤が滲んでいる箇所もある。日付が飛んでいる所もあれば簡潔に


『今日もまた、生きている。』


とだけ記されている所もあった。


 私は、それはもうのめり込む勢いでページを捲っては文を読み、捲っては文を読むを何回も繰り返した。

 絶望に打ちひしがれそうになりながらも何とか生き延び、家族と、友と助け合い時に裏切られながらも窮地を脱していく。


 そんな正に手に汗握る物語に私は時を忘れ、飲食することを忘れ、それに全てを奪われていた。


 気づけばページも残り僅か。この物語の主人公は無事にまた平和な日々に戻れそうであると締め括られ、そこで文は終わっていた。


 今までに感じたことの無い高揚感にいざ、この本の著者は誰であろうと最後のページを捲った時、私は息をするのを忘れその名を凝視し続けた。


そこにあるのは、私と同姓同名の名が。


 こんな偶然があるだろうかと驚いていると、最後のページの下に小さく何かが書かれていることに気付く。何だろうかと目を凝らし、顔を寄せ、それを読んだ。


『初めまして、過去の私。

 貴方が今この文を読んでいるということは、私はこの連鎖を止められなかったということでしょうか。

 貴方が今これを手にし、最後まで読み進めてしまったが最後。貴方の世界でも彗星はやってきて多くの混沌が降りかかることは確定してしまった。

 連鎖を止めるために私が読んだ"私の日記"とは違う結末を迎えたのだが、どうやら失敗に終わってしまったようだ。

 力不足である私を赦ゆるして欲しい。そしてどうか、貴方は私とは違った結末を迎えることを祈る。

 なんのことか分からないであろうが、この日記に記されているのは全て現実で起こりうる。そして、君はまた"私の日記"を書くことになるだろう。

 初めのページへと戻り、そして君の机の上を確認してくれ。


 私から言えるのは、それだけだ。』


つぅ…と目でなぞり終えた文の意味をゆっくりと脳で咀嚼する。


 理解しようにも脳はガンガンと大きく警報を鳴らすが、震える手をそのままに私は、初めのページへと指を差し入れた。

 そして、私は明確な違うものを発見したのであった。


 滲んでいたはずの日付が、明確な数字としてそこに記されていた。その日付は、"今"から約3年後の日付。


 私は思わずその日記を放り投げ、バクバクとうるさい胸元を抑える。

 ありえない出来事に夢だと頭をかぶりを振るが、ふと視界の隅に写った"それ"に頭から血が下がるのを感じた。


先程まで無かった、床に放り投げたはずの"新品の日記帳"


 私はもつれ倒れ込みそうになりながらもそれを引っ掴んで、床に落ちていたものと一緒にまた、物置へと叩きおいた。


そして記憶の奥底へとしまい込むようにした。




 時は流れ、あの日から3年。私は雲ひとつ無い綺麗な夜空に降り注ぐ彗星を背に物置へと足を踏み込み、そしてそこで震える文字でとある文を書き込んだ。





『1つの彗星がこの星に飛んできた。』


この話を見つけて下さったことに感謝を。ここまで読んで下さりありがとうございました。過去に別のサイトにも投稿したお話です。

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