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1110日記 片思い、あいしてる。

片思いだったのだろう。
離れている間、一方的に美化して想像し期待を膨らませ、声音で機嫌を伺いながら気に入ってもらうように言葉を選んで談笑する。生活の近況を話しながら、いつかわたしの元に来てくれると信じていた。わたしを選んでくれると期待していた。
昨年の師走、わたしの結婚について報告して、いつか彼を会わせたい旨を伝えると、電話の向こうで、
「だから、あなたと関わりたくないのよ。こんな気持ち、もういやなの。」
と彼女は啜り泣いていた。さみしかったのか、悲しかったのか、悔しかったのか。母は、泣きながら電話を切った。
正月に叔母から、母の携帯電話が解約されているとの連絡を受けた。わたしは、母が泣いて電話を切って以降、彼女から送られてくる「捨てられないもの」の段ボールを受け取ってはいたが、解約について気が付かなかった。これまで離れて過ごしてきた数年、毎月に1度や2度、空いても半年に1度、数時間話し込むくらい近況を報告しあっていたのに、啜り泣いた母の声が耳に染み付き、母からの拒絶も相まって自分から電話をしていなかった。
今日は彼女の誕生日。彼女は祝われるのが嫌いだ。年齢を重ねること、老いに恥を感じているようで、祝いの言葉を投げるたびに
「年食っても何も嬉しくないわよ。」
とぶっきらぼうに言い放っていた。ネットで頼めるお花だけは律儀に受け取って、喜んでいた気がする。お花は正解なんだ、とわたしは覚えている。
14歳くらいの頃、母にわたしのことを愛しているか、と尋ねた際に、
「なにバカなこと言ってんの。本当におめでたいのね。」
と嫌悪の表情で言っていた。もしかしたら母と父が喧嘩の最中だったかもしれない。タイミングも家庭内の空気も最悪な時期だった。
彼女の輪郭を静かに思い出して、彼女ともう二度と、おそらく、二度と、快く会うことはないだろうと考えて、一方的にでもいい、わたしから「あいしてる」って言えば良かったと後悔している。お母さん、お誕生日おめでとう。

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