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030:サーフェイスはマテリアルであると同時に「仮想の空間」そのもの🤔💬

ここ数日,グーグルのマテリアルデザインで「Transforming Material」という小見出しで説明されているサーフェイスの分割と再統合について考えている.

ひとつのサーフェイスがあって,突如,それが分割される.分割されたサーフェイスは,操作対象となってなっている部分が上に上がり,その他の部分は元の高さにある.そして,上に上がった部分を下に動かすと,その動きに連動して,上の部分と重なった下の部分とが場所を入れ替えるかたちになり,上に上がっていた部分が再度,下に戻ってきて,3つの部分が再結合されてひとつのサーフェイスをつくる.

書き出してみるとややこしい感じがする.しかし,スマートフォンを操作しているときには,ややこしさは感じない.気持ち良い動きとともに,項目を入れ替えているだろう.

一枚のサーフェイスに切れ目としてのラインが入り,3つに分割される.ラインがサーフェイスを形成する.3つに形成されたサーフェイスのひとつが浮上して,移動する.3つのサーフェイスは個別に動く,個別のものである.しかし,その動きに連動して,元の高さにあるふたつのサーフェイスも移動するから,これら3つのサーフェイスはひとつのサーフェイスとしてあるとも言える.

ティム・インゴルドは次のようにラインとサーフェイスとの関係を書く.

本章ではこれから糸,軌跡,および両者の関係を集中的に考察するつもりだが,ラインには三番目の重要な範疇がある.それは表面に素材を付加することでも,表面から素材を削りとることでもなく,表面そのものの破損によってあらわれる.すなわち切れ目 cut,亀裂 crack,折り目 crease である.1926年の論考『点と線から面へ』のなかで,ヴァシリー・カンディンスキーは「ラインの特別な性質とは,面形成の力である」(Kandinsky 1982: 576, 強調は引用者)と書き留めた.水平方向の位置転換によって平坦な二次元平面をつくりだす直線の力については第六章でもう一度取り上げるつもりだ.カンディンスキーが用いる例は,考古学の発掘過程で新しい垂直面がつくりだされる場合のように,スコップの移動する線状の刃先が地表面にどうやって切れ目を入れるのか,ということである.それから,もちろん鋤の刃先が土に切り込む農地の畝のラインもある.鋤は新しい表面をつくりだすだけではなく,表面を上向きにひっくりかえすこともする.また,素材シートに切れ目を入れる行為は,地面に切れ目を入れるのとちがって表面をつくりだすのではなく素材である表面を分割する.p.82
ラインズ 線の文化史,ティム・インゴルド

「Transforming Material」で示されているのは,ラインによって分割されるサーフェイスだと言えるけれど,インゴルドが挙げる「鋤は新しい表面をつくりだすだけではなく,表面を上向きにひっくりかえすこともする」の例からも考えられるような気がする.「表面を上向きにひっくりかえす」ではなく,「表面を上に浮上させる」となるけれど,この行為をすることで,表面を構成する要素の順番が変わるのだから,あたらしいサーフェイスをつくりだしているとも言える.サーフェイスを上向きにひっくりかえすように,順番をかえる.

マテリアルデザインにはサーフェイスしかない.サーフェイスについての定義を行い,サーフェイスで空間をつくっていく.このサーフェイスは1dpという厚みがあるが,それはサーフェイスとつながりを持ったバルクではなく,理念的なものである.このサーフェイスは厚みはあるが,裏がない.それはひっくり返ることがない.ひっくり返る代わりに,浮上して移動する.マテリアルデザインという名前であるが,ここには従来の意味でのマテリアルはなく,理念的に定義されたサーフェイスのみを示すあたらしいマテリアルがある.

イメージとして定着された空間と現実空間とをつなぐものとして写真技術があったとすると,それらの中間に仮想の空間が,デジタルの技術によって出現したということだ.ここまでの議論は,その表示媒体としての紙からディスプレイ装置への変化によって生みだされている変化に対する気づきの話である.p.217
不完全な現実,藤幡正樹

メディアアーティストの藤幡正樹が指摘から考えると,私たちはディスプレイに「イメージとして定着された空間」を,それを支持する「仮想の空間」とともに見ている.マテリアルデザインでは白い四角のマテリアルは厚みのあるサーフェイスとして定義され,その上に表示される画像やテキストには厚みがない.仮想空間での実体として定義されているのは,白い四角のマテリアルでできたサーフェイスしかない.そして,マテリアルデザインは仮想空間をサーフェイスのみで構成しようとしている.それはカンディンスキーがいうような「非物質化された平面」であろう.

堅固な,多少とも堅い,目でもわかる地–平面の上における要素の堅固な(物質的)存在と,これとは反対の,説明できないような(非物質的な)空間の中における物質的な重量を持たない要素の「浮遊」とは,根本的に相違した.正反対に対立する現象である.
点と線から面へ,ヴァシリー・カンディンスキー

だから,ラインで分割されたサーフェイスは浮遊する.分割される以前のサーフェイスも浮遊している.ここで唐突だが,マテリアルデザインでは,サーフェイスはマテリアルであると同時に「仮想の空間」そのものであり,だからこそマテリアルとして分割されると同時に空間として再結合して,空間としてのサーフェイスになる,とは考えられないだろうか.

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