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190:解像度を16×16まで落とした代わりに,紙送りセンサーは毎秒数千回というスピードで撮影ができる

解像度を16×16まで落とした代わりに,紙送りセンサーは毎秒数千回というスピードで撮影ができる.ふつうは,かなり高級なカメラでも毎秒30回程度だろう.これだけ速いと,画像間のずれを基にして紙が移動している方向を簡単に判定することができる.さらに消費電力も小さくできる.紙送りセンサーは,画質を極端に落とすことによって,その用途に必要なスペックを低コストで実現したわけだ.位置No. 1429/2270

コンピュータサイエンスの研究者,暦本純一『妄想する頭 思考する手』からの引用で,プリンタの「紙送りセンサー」に「低画質のカメラ」を使っていて,「低画質」という点が重要だったという説明がされている箇所になる.

カメラの進歩というのは解像度を上げて高画質になることだから,低画質のカメラを活用するというのは「進歩」とは逆の出来事である.しかし,「低画質」であるからこそ,低コストで高速な撮影ができて,紙の移動の方向を判定すること可能にしている.

ヒトの視覚システムにおいても,同じことが起きているのかもしれない.中心窩よりも解像度が落ちる周辺視野は,低解像度だからこその機能がある.周辺視野の役割を「紙送りセンサー」と同じだと考えると,外界を低解像度でモザイク状にとらえて,対象の動きを向きと大体の大きさや質感の情報を得ている.対象のテクスチャなど高精細な情報は中心窩に入って,はじめて得ることになる.低解像度のモザイク状の情報であっても,情報は0ではなく,対象の情報は何しかしらは得られるから,予測モデルの構築に寄与する.そして,予測誤差の修正プロセスにおいて,低解像度の情報は次々に高精細度にアップグレードされて意識にのぼっていく.しかし,予測誤差修正のプロセスにおいて必要ないと判断された低解像度の情報は,意識にのぼることなく,視覚システムのどこかに埋もれていく.

このように考えると,低解像度の情報と予測モデルとの誤差というあらたな情報が,表象をより精緻なものにしているけれど,私たちの意識にのぼる高精細な表象モデルには必ずどこかに低解像度の情報が入り込んでいると言えるだろう.そして,低解像度の情報は高精細なモデルよりも高頻度で外界からの情報を受け取っていると考えると,夥しい数の微小データが視覚システムに埋もれていて,それゆえに,次の状況でそれらの微小データが予測モデルの構築に呼び出される可能性は高いと考えられる.

ここでいきなり写真の話をすると,写真は外界から微小データを得ることなく,すべてのデータが高解像度の表象に直結していると言える.高解像度のカメラのセンサーの一つ一つはとても小さくて微小データを生み出すと言えるかもしれないが,それらははじめから高解像度の表象をつくるために統合されたものであって,視覚システムのようにシステムに埋もれることがないデータである.予測誤差が常に限りなく0に近い微小データと,予測誤差が極端に大きいかもしれない微小データは,データとしてはともに微小だとしても,予測誤差という点では大きく異なるというところが重要なのである.だから,低解像度のモザイク状の表象が現れるとすると,それは低解像度という点では情報はないが,予測誤差との関係では大きな情報を持った表象であるために,そこに注意が向けられるのである.

カバー画像は,エキソニモの作品《A shot computer keyboard, sliced》の一部です.


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