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072:デジタル,フィジカル,「非物質的」物質["immaterial" material]を横断して考える

学会発表に向けて,Mikael Wiberg『The Materiality of Interaction: Notes on the Materials of Interaction Design』を再読していく.

Mikael Wibergは,スウェーデンのUmeå Universityで情報学を教えているらしい.

イントロダクション

『The Materiality of Interaction: Notes on the Materials of Interaction Design』で,Mikael Wibergは「インタラクションデザインへのマテリアル中心アプローチ」を提唱する.このアプローチは,ヒトとコンピュータとのインタラクションをデジタル,フィジカル,「非物質的」物質["immaterial" material]を横断して考えることである.

この部分を読んで,私が気になったのは「非物質的」物質だった.「非物質的」物質は,デジタルとフィジカルとが合わさったもので,スマートフォンやスマートウォッチのことを指すということが後になってわかってくる.「インタラクションデザインへのマテリアル中心アプローチ」は,渡邉恵太さんの『融けるデザイン』から続く.インターネットを前提としたインターフェイスデザインでの「データの具現化」に近いなと思って,初読のときは読み進めていた.

「「非物質的」物質はデジタルとフィジカルとが合わさったもの」と書いたけれど,正確に言えば「フィジカルなマテリアルがインターフェイスの一部となっている」と書かれている.ここで例であげられるのが,スマートフォンで,読み進めていくと「iPhone7のジェットブラック」の塗装の質感が,インタラクションの一部となっていると書かれている.私もこれはそうだと思う.インタラクションが画面の外に飛び出してきており,フィジカルな質感が画面とのインタラクションと結びついている.この視点を持つと,「インタラクション」というヒトの行為とコンピュータの演算処理とを合わせたところに「マテリアリティ」を見いだすのは自明のものとなってくる.単なる物質でもなく,単なる演算処理でもなく,これらが合わさったところにできる「マテリアリティ」=「非物質的物質」を考えることが求められていると,Wibergは考えているし,私も考えている.

この変化のなかでインタラクションデザインは「表象・メタファー」に基づくインタラクションから,マテリアル・インタラクションへと変化していく.「デスクトップメタファー」が,物理世界のモノや行為を「メタファー」という言葉の力を使いながら身体感覚を伴いながら画面上のアイコンへと抽象化していったとすれば,マテリアル・インタラクションはアイコンなど画面で行われてきた抽象的なインタラクションにフィジカルさを与えることになるだろう,ということを私は考えた.iPhoneによってタッチパネルが一般化していくなかで,インタラクションの流れが画面の中へから外へと反転が起こったように感じている.この流れでできてた,「スマートウォッチ」は「時計」という形が重要で,デスクトップのパソコンの小型化ではないと考えることが重要になってくる.実際,WATCHのwatchOSはデスクトップメタファーを採用していない.

GUI が努めるべきはむしろ,物質感の排除だ.デスクトップメタファから脱するには,グラフィックの記号性をもっと高めて,デジタルネイティブなイディオムを発明していく必要がある.もう奥行き感とかドロップシャドウとかやめないといけない.巻き物メタファのスクロールもやめていい.

その意味では,Apple Watch のグラフィックはちょっといい線を行っている気がする.二次元的とも三次元的ともつかない,黒い背景に記号だけが漂っているような調子がいい.抽象的な図形とマイクロアニメーションで構成されたインタラクション.小さなスクリーンを前提として,はじめから箱庭を捨てている.
マテリアルは逆説じゃなかった,上野学

画面の記号性を高めていき,画面内に抽象的な独自のマテリアルをつくりあげていく上野とは異なる方向で,Wibergはダイレクトにマテリアルを求めていく.彼は,記号ではなくマテリアル自体でヒトとコンピュータとのインタラクションが成立するようになり,最終的には記号を成立させる「コンピューティング」自体が表象やメタファーから抜け出し,マテリアルとなることで「世界」の一部になっていくだろうと考えている.そして,マテリアル中心アプローチのインタラクションデザインでは,以下の3つが求められているとしている.

・マテリアル感度における基盤とのインタラクションデザイン
・手の中のマテリアルと親密なインタラクションデザイン
・デジタルマテリアルがアナログ/フィジカルマテリアルと協力したり,活動的にしたりする方法を理解することに集中するインタラクションデザイン

私は,上野の画面内の抽象化による独自のマテリアルとWibergのダイレクトなマテリアルとを合わせた地点で「マテリアル」を考えたいと考えている.

ということで,次は「1:Representation───HCI and Its History of Representation-Driven Interaction Design」を読む.



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