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031:バラバラのサーフェイスがつくるバルク

マテリアルデザインのボタンは押されるのではなく,浮上して,それが「押された」ことを示す.ボタンを押そうと思って,ボタンの上のディスプレイに触れると,ボタンが浮上する.押した人は「押した」と思っているだろう.そのときにボタンはきっと下に沈み込むと思っている.けれど,ボタンは浮上している.奇妙な感じがするが,浮上するにしろ,沈み込むにしろ,フィードバックがあることから,ヒトはボタンを押したことを感じる.

堅固な,多少とも堅い,目でもわかる地–平面の上における要素の堅固な(物質的)存在と,これとは反対の,説明できないような(非物質的な)空間の中における物質的な重量を持たない要素の「浮遊」とは,根本的に相違した.正反対に対立する現象である.
点と線から面へ,ヴァシリー・カンディンスキー

前回のテキストでも引用したが,カンディンスキーは「非物理的な平面」は「浮遊」すると書いている.彼の指摘から考えると,非物理的なボタンは「浮上」してもおかしくはないとも考えられるだろう.そもそもピクセルの光の平面には重力がないのだから,マテリアルはいくらでも浮けると考えたほうがデザインが自由にできるだろう.ここで重要なのは,マテリアルがすべて浮いている状態に,ヒトが積極的に関与していき,そこにあたらしい意味を見出していくことである.マテリアルデザインでは,すべてのマテリアルが浮いている,ここからすべてがスタートする.そして,マテリアルデザインはピクセルの平面に基底面を設定して,ガラスのタッチパネルとのあいだに高さのレベルをつくり,ボタンなどのマテリアルの高さを操作することで,さまざまなインタラクションを可能にしている.

俯瞰視点しか許さないマテリアルデザインでは,すべてが平面である.マテリアルデザインではマテリアルのみでなく,視点そのものも浮いているのである.そして,俯瞰視点で捉えられた平面がマテリアルデザインのルールに基づいて動くことで,ヒトにとって意味ある表面=サーフェイスになる.そのサーフェイスには厚みはあるが,裏はない.浮遊している非物理的に平面に意味づけをして,高度を操作して,意味ある表面に変えていく.元々が幾何学的平面でしかない白い四角に意味を与えるために,高さが与えられ,重ねられていく.そして,ヒトにとって意味のあるサーフェイスになる.サーフェイスの重なりは立方体のように「モノ」らしくマッスな感じをつくることなく,異なる高度で浮遊している.この状態が,ひとつの空間らしきものをつくる.その空間のなかでは,浮遊しているボタンはさらに浮遊する.

ディスプレイを通常通り俯瞰で見ていると,それは複数の浮遊するサーフェイスの重なりであるが,それを横から見ても,やはり,浮遊するサーフェイスの集合体である.しかし,それらはかつて立方体のようなモノを構成していたサーフェイスがバラバラになり,秩序をもって配置されたものと考えたらどうだろうか.モノはサーフェイスに隙間なく囲まれ,その中身をバルクと呼んだ.ディスプレイがつくる仮想の空間では,サーフェイスはバラバラになってながらも,統一されているということも可能になっているのではないだろうか.バラバラになったサーフェイスは異なる高さで配置されながら,一定の高さのなかにひとつのモノとして収まっているのではないだろうか.バラバラのサーフェイスがつくるバルクというものも可能なのではないだろうか.その試みのみひとつがマテリアルデザインだと考えてみたらどうだろうか.

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