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日本の「お金の教育」が子供に超悪影響な深いワケ ー「投資される側になる」発想の欠如が国を傾けるー

###この投稿は、筆者が東洋経済オンラインに投稿した記事を転載しております###

子供たちに「投資すること」を教える意味

「うちも投資したほうがいいのかな」

サトミの言葉に、夫はアジフライを箸に挟んだまま、ぽかんと口をあけている。いつもの彼女らしからぬ発言だったからだろう。

病院勤務のサトミは、これまで“投資”とは無縁の生活を送ってきた。NISAが来年から拡充されるという話も、自分には関係ないと思っていた。ところが、今日の昼休みに同僚たちが投資の話をしているのを聞いて、妙な焦りを感じた。

食卓の沈黙を破ったのは高校2年生になる娘の言葉だった。

「来月、誰か来るらしいよ」

彼女の人差し指が、食卓の隅に置かれた“学校便り”をさしている。

サトミがその紙を広げると、来月の講演会について書かれていた。投資にくわしい講師が全校生徒向けに投資の話をしてくれるそうだ。

学校で投資の講演を聞くというのは違和感を覚えたが、これからの時代、投資もわからないようでは生きていけないということなのだろう。

「しっかり聞いてきて、ママにも教えてよ」

サトミは本心から娘にお願いした。

昨年から高校の家庭科で、金融教育が始まった。この金融教育について文科省の指導要領を読むと、投資について書かれていることはごくわずかでしかない。

ところが、銀行などの金融関係者たちは「高校でも投資教育が始まった」と言って張り切っている。若い顧客を囲い込もうとでも思っているのだろうか。彼らのせいで、教育者も含めて金融教育=投資教育だと勘違いしている人たちも多い。実際に、サトミの娘の通う学校のように、特別講師を呼んで投資を教えている学校も少なくない

なぜ外資系金融機関が首相を「接待」するのか

さて、場所は変わって、迎賓館赤坂離宮。
バッキンガム宮殿やヴェルサイユ宮殿を参考に建てられたこの建物は、現在では世界各国の賓客をもてなすために使われている日本の迎賓館である。
先月10月5日、この迎賓館で夕食会が開かれた。世界の機関投資家が集まったこの夕食会に参加した岸田首相は、海外の投資マネーを日本に呼び込むと張り切っている。
日本のためにリーダーシップを発揮しているように見えるのだが、いささか様子がおかしい。この夕食会の主催者は岸田首相ではなく、アメリカの資産運用大手ブラックロックなのだ。つまり、岸田首相は客人として呼ばれていたのである。
個人レベルでも国レベルでも「投資」という単語をよく聞くようになった。「貯蓄から投資へ」は、国民の資産所得倍増を目指す政府のスローガンになっている。
銀行に眠っている預金が投資に回れば、日本経済はいっきに回復すると主張する人は多い。そして、その実現のために投資教育をすすめてマネーリテラシーを底上げする必要があるという。
投資教育で日本が回復するなら嬉しい話だが、残念ながら実態はまったく異なる。その主張をする人たちこそ、マネーリテラシーを上げるべきだ。彼らの考える投資教育とは、「投資をする側」だけの偏った教育だ。この教育が日本の凋落をさらに加速させることは必至だ。

この20年ほど、アメリカでは情報技術への投資が盛んだった。GoogleなどのいわゆるGAFAがアメリカの株価を押し上げたのは紛れもない事実だ。

GAFAの先頭にあるG、Googleという検索エンジンを開発したのは、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンの2人。開発当時、彼らはまだスタンフォード大学の学生だった。

1990年代にインターネットが普及し始めたころ、インターネット上の検索エンジンの精度は低く、検索ワードと関連の少ないページが検索結果の上位に表示されることが多かった。

その不便さを解消しようと彼ら2人が立ち上がった。彼らの研究が評価されたことで、投資マネーが集まった。多くの人を雇うことができて、Google Mapなどのさまざまな製品を開発することに成功した。彼らのように、社会に存在する不便さや問題などの解決に取り組もうとする人がいるから、社会は暮らしやすくなっていく。

そして、世界の大富豪の上位は、そのほとんどがこの2人のような起業家たちだ。彼らは「投資する側」にいて、お金をもうけたのではない。自分たちで問題を解決しようとして、「投資される側」に回ったのだ。今でもスタンフォード大学では優秀な学生ほど起業家を目指すそうだ。

お金ではなく「若い時間」を投資する

私が先日上梓した経済教養小説『きみのお金は誰のため』では、投資銀行で働く七海が、投資への誤解を反省するシーンがある。

「投資の目的は、お金を増やすことだとばかり思っていました。そこまで社会のことを考えていませんでした。大切なのは、どんな社会にしたいのかってことなんですね」
苦笑いで恥ずかしさを隠す彼女に、ボスが優しく声をかける。
「そう思ってくれたんやったら、僕も話した甲斐があったわ。株価が上がるか下がるかをあてて喜んでいる間は、投資家としては三流や。それに、投資しているのはお金だけやない。さっきの2人は、もっと大事なものを投資しているんや」
ボスは七海と優斗を順に見つめてから、ゆっくりと続けた。
「それは、彼らの若い時間や」

『きみのお金は誰のため』152ページより

残念だが、現在の日本の投資教育を受けていると、「投資=お金を増やすこと」だとインプットされる。投資の実態を知らなければ、「投資される側」に回ろうとする発想も浮かばない。
働けなくなった高齢者が投資をしてお金を増やそうとするのはわかるが、問題を解決するために「投資してもらう側」になるべき若者に、アメリカ株への投資を教えることがいかに馬鹿げているかは明らかだろう。小説に書いたように、お金ではなく「若い時間」を投資することが重要なのだ。もちろんお金が余っているのなら、「投資する側」に回るのもいいだろう。しかし、「投資される側」の存在を教えていないのは危機的状況だ。

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