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モモチップスの感想文

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モモチップスが鑑賞した作品の感想文です。
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記事一覧

『神様、回復魔法を頼んだはずなのにこれ開腹魔法なんですけど!?』感想

榎木ユウ先生の新作ということで、拝読しました。 タイトルからしてまず、一体どういうことなんだ!? って感じなんですけれども。冗談というか出落ちみたいなこの設定を活かしきったストーリーになっていて、とても面白かったです。 テンポよく世界に入って行けて、楽しく親しみやすい登場人物たちに出会えるのがやはり榎木先生の作品の魅力だと思います。コミカルで入り口はいかにも楽しいラブコメなんですけど、ストーリーのなかでヒヤッとするような展開が待ち受けていてハラハラしたり、主人公たちの純

『宝石商リチャード氏の謎鑑定少年と螺鈿箪笥』感想

辻村七子『宝石商リチャード氏の謎鑑定』シリーズ待望の第三部開幕。私も連載の原稿を大急ぎ描き上げて拝読しました。 前巻が番外編のような形だったこともあり、彼らの物語にここまで深く長く潜っていくのも少し久しぶりという感覚がありました。 今回から舞台は横浜に移り、新たな登場人物として霧江みのるが登場。 彼は中学一年生なのですが、中学一年生の少年のものごとの観方、感じ方がなんだかリアルでぞくぞくしました。言い知れない閉塞感、無力感、それが成人するまでまだまだ何年も続くということに

『プーチンの世界 「皇帝」になった工作員』感想

ブルッキングス研究所所属のフィオナ・ヒルとガディ・クリフォード・Gによるプーチン大統領の研究書です。 本書で述べられるのはあくまでアメリカ人から見たプーチン像であることと、2014年に出版された本の翻訳であるため内容が少し古いという点には留意する必要があるものの、非常に勉強になりました。 そもそもプーチンは自身の情報をコントロールしていますから、彼の実像にせまるのは難しいことです。 だからといって、現代のロシアを自分たちの枠組みとは違う「よくわからない国」にしておいていい

『女王の番犬』感想

遅ればせながら『女王の番犬』読みました。藤ヶ咲先生の装画の本は絶対読みたいのです。相変わらず装画が最高です。 西洋風ファンタジー・ミステリーなんですが、この1冊で3国の国主がそれぞれ登場し、テンポもよくて面白かったです。刺客が女王に仕込んだ毒、女王の姉の死の真相、君主の証のありかなど、ミステリー要素のちりばめ方も気が利いていて最後まで飽きませんでした。 結構人間は合理的じゃないことをやるもので、感情を抑えられずに他者も自分をも傷つけたりする。 各々の事件のなかに通うま

『物語 ウクライナの歴史』感想

日本の駐ウクライナ大使を務めた著者・黒川祐次の手によるウクライナの歴史の概説書です。選書理由に関しては言うに及ばず、現在起きていることに対する己の認識を深めるためというか、いわば解像度を上げたいと思って読みました。 ロシアを舞台にした小説やエッセイなどを読んだことはこれまでもないわけではなかったのですが、ウクライナという国に対して自分がこれほど何も知らないとは、愕然とした気分になりました。 というのも、本書で述べられているとおりウクライナはその歴史のほとんどを他の国に統治

『日本人のための第一次世界大戦史』感想

板谷敏彦著『日本人のための第一次世界大戦史』を読みました。 日本におけるWW1は、WW2の凄惨さの影に隠れて、ほとんどWW2への助走のような理解をされている印象があるのですが、ヨーロッパにおいてはそうではないということをまざまざと感じられる本。戦闘や政治についてのみならず、包括的にWW1について学べる良書でした。 カナダが舞台となるモンゴメリの『赤毛のアン』シリーズでも、終盤になるとアンの息子たちが第一次大戦に駆り出されて行ったことが個人的には印象に残っていて、「ああ、当

『転生! 太宰治』感想

佐藤友哉著『転生! 太宰治』を「転生して、すみません」からFINALの「コロナで、グッド・バイ」まで読みました。 入水したはずの太宰治が現代に転生し、行きずりの女と心中しかけたり地下アイドルに芥川賞を取らせようとしたりする話。 知らない人のAmazonレビューにもこう書いてあったのですけど、「何もかもがよかった」。 転生した太宰の一人称小説という設定になっているので、終始太宰の文体を意識したちょっとまわりくどいような文章になっているのが特徴。その一方で太宰が『文豪ストレ

『転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す』感想

現在発売中の書籍6巻まで読みました。知人からの推薦図書です。 タイトルのとおり、前世で強大な癒しの魔法を操った大聖女が、その力を受け継いだ主人公に転生しますが、そのことが敵に露見するのを恐れて力を隠すというファンタジーコメディです。 大聖女であることを隠そう隠そうと言いつつ、全然隠せてないやんけ!! ……みたいな展開を楽しむコミカルな作品。読み口が軽くてするすると読める楽しい作品だと思います。 ただ、私は作中、主人公フィーアを取り巻く多くの人々が彼女を崇拝し、崇め奉る光景

『妖精の庭 秘密の花園』感想

一原みう著『妖精の庭 秘密の花園』を読みました。 こちらも作家さんのSpaceでのおすすめで手に取ったのだと思います。どういう意図のおすすめだったかすっかり忘れてしまって、どういう話なのかあらすじも確認せずに読み始めたら、ちょっと特殊な作りの話で、意外な面白さを感じました。 人の幸・不幸はその人自身の認識に因るものであって、世間から見てどうとか、倫理や常識といった尺度で測れるものではないということを繰り返し述べている作品なのですが、主人公たちがいわゆる身分違いの恋をしていて

『皇女アナスタシア ~もう一つの物語~』感想

一原みう著『皇女アナスタシア ~もう一つの物語~』読みました。 アナスタシア伝説を下敷きにした少女小説です。 こちらは確か、辻村先生のSpaceでおすすめされた本だったかと思います。ロシアといえば一原先生、ということで。 皇族一家の最後の日々をアナスタシアの視点から描くことで、ほとんど宮殿に閉じ込められた毎日も鮮やかに感じられました。アナスタシアたちには過酷な運命が待ち受けているわけですが、そのドラマも少女向けのライトノベルらしく、歴史小説のように固くなり過ぎず抒情的に描か

『天平の甍』感想

読みました。選書理由を思い出せないのですが、おそらくラジオか何かによるおすすめだったと思います。 遣唐使として大陸に渡った修行僧たちが、艱難辛苦の果てに日本へ鑑真を連れ帰るという歴史小説です。 唐で仏教を学ぶとか、仏典や経典を持ち帰るとか、高名な僧侶を連れ帰る仕事なんて、不勉強で仏教にも歴史にもさして明るくない私にはイメージのつきにくい事業ですが、この小説ではその一連の物語をまるで見てきたかのように見事に描き出していて、ひとつの冒険小説のようでもあり、非常に釣り込まれてしま

『派遣社員あすみの家計簿』感想

現時点の最新3巻まで読みました。 個人的にはすごく共感する作品でした! 私自身、学生時代からバイトもいろいろやったし、日雇いもしたし、就職活動に苦労したこともあるし、貧乏したこともあるし、正社員になるまで何年もかかった経験もあるし、転職もしたし、現在はフリーランスになっているという経歴ですから、主人公と符合する要素も多くて、楽しかったです。 婚約者に貢いで逃げられたことはないですけど……。 仕事ってひとくちにいっても本当に様々で、向き不向き、合う合わない、というのは本当に

『黒牢城』感想

読みました。 昨年6月に刊行されてからというもの、とにかくミステリーに限らない名だたる賞を総ナメしている小説なので、読まねばならぬと思いました。 主人公が有岡城に籠城中の荒木村重っていうところがまずひとつ面白いですよね。 この時代、名だたる戦国武将が群雄割拠している状態で、もはや題材には事欠かないわけですが、あえての主人公は村重というチョイス。そもそも彼に別にヒーローらしいイメージがとくにないので、「なんで村重?」というところがまず気になりました。どう見ても本書の彼はすでに

『神童マノリト、お前は廃墟に座する常春の王』感想

仲村つばき著、廃墟シリーズの6冊目です。 これまでは現在のイルバスという国の成り立ち、そして現在の玉座を預かる3人の王についてそれぞれ描いてきた本作ですが、いよいよ役者が出揃ってきたという感じでお話も大きくうねる巻になっていました。 女王ベアトリスが助成する隣国ニカヤでのお話。 もともとは王の権威が強かったイルバスも、革命が起こって以来ここ60年ほどで随分市民に歩み寄った国になっている印象なのですが、ニカヤで国民の参加する議会を見たエスメの感想がとても興味深かったです。イ