見出し画像

松尾芭蕉「古池や・・・」の「古池」はどこ?

先日は、「名月や池をめぐりて夜もすがら」の「池」について紹介しました。

今回は、芭蕉の句に詠まれた池としてはもっと有名な、

古池や蛙飛こむ水のおと ふるいけやかわずとびこむみずのおと

の「古池」について考えたいと思います。実は滋賀県と京都府の境近くにある岩間寺(西国三十三所の第十二番札所)に、芭蕉がそこでこの句を詠んだと伝わる「芭蕉の池」が存在します!

芭蕉の池

そこにある石碑の説明では、

芭蕉の池石碑

芭蕉が岩間寺に参籠して供養塔を建てた「霊験」(れいげん・祈願することによって神仏から与えられるご利益)によって「古池や・・・」の句ができた、と観音霊験記にあるらしい。私が見た2種の「観音霊験記」では、そのようなことは確認できませんでした。そのうちの1つに「霊験によって末代まで(芭蕉の名が)知られるようになった」というようなことは記してありましたが、「古池や・・・」の話はなかったです。もっと別の「観音霊験記」があるのかもしれません。

芭蕉句集などの本にはどう説明してあるのか、数冊調べてみました。

(1)「『葛の松原』に芭蕉庵のかたわらにあった池と記録されて以来、そう解されているが、強いて芭蕉庵に拘泥することはない」(『松尾芭蕉集1(新編日本古典文学全集)』小学館1995)
(2)「芭蕉庵の傍らに池があったという(葛の松原)」(『芭蕉全句集』角川ソフィア文庫2010)
(3)「この句の古池は、もと杉風が川魚を活かして置いた生簀の跡で、芭蕉庵の傍らにあったと思われる」(山本健吉『芭蕉全発句』講談社学術文庫2012)

(3)の杉風(さんぷう)は芭蕉の弟子で、職業は魚を扱う幕府御用の問屋だったそうです。この3冊によると、深川の芭蕉庵のそばにあった池、ということになります。『葛の松原』は、1692年に刊行された、支考(芭蕉の弟子)による俳論書です。芭蕉の信頼する弟子が、芭蕉の生前に刊行した本なので、信頼度は高いということだと思います。

「古池や・・・」の「古池」は、「名月や・・・」の「池」と同じく、深川・芭蕉庵のそばの池であると考えるのが、今のところは自然でしょうか。ただ、(1)の本の言うように、場所にこだわらなくてもいいかもしれません。読者それぞれがイメージする「池」から、この俳句のこころを味わう方が大事かと思います。岩間寺で詠まれたと伝わっているのなら、そこにある「芭蕉の池」で「古池や・・・」の句をおもうのも素敵なことではないでしょうか。
なお、岩間寺は西国三十三所の札所ですが、落ち着いた雰囲気のあるお寺です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?