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10さいの思ひ出

 10歳の頃、叔母と「崖の上のポニョ」を観に行きました。叔母のことをわたしは<いづみおねえちゃん>と呼び慕っていました。ふたりで映画に行ったのもこれきりだったので、いづみおねえちゃんとの印象深い想い出の一つなのです。

 映画を観に行ったのは隣町の古びた某ショッピングモール。わたしたちがポニョを観に行った翌年あたりにその映画館は潰れました。当時わたしは10歳の子どもでした。いづみおねえちゃんは40歳くらいだったかな。おねえちゃん、なんて歳でもなかったけど昔からおねえちゃん、って呼ばされていたから。現にいづみおねえちゃんはおねえちゃんらしかった。それくらい若々しい。当時はよく、ジャラジャラなピアスをつけ、髑髏のTシャツ、ダメージジーンズで革ジャン。ロックな格好が好き。そんないづみおねえちゃんは10歳のわたしから見たら、20代劣らずのフレッシュな若々しさがあったのです。

 映画の券を買っているとき、わたしはある賭けをいづみおねえちゃんに持ちかけました。「ねえ、ポニョってどんな姿か覚えてる?合ってた方にクレープを奢ろう」。いづみおねえちゃんは「いいね。それ」と乗ってくれました。わたしはこれから映画を観る楽しみでテンションマックスでした。わたしは「ポニョはね、顔は人だけど、体はピンクでひらひら。おなかは白い」確かこんなことを言った気がします。いづみおねえちゃんは「え~ポニョは人魚の見た目だったよ」いづみおねえちゃんがそうはっきり口にしたとき、わたしは勝った、クレープはわたしの物だ、そう思いました。

 映画を観終わり映画の余韻に浸りながらわたしはいづみおねえちゃんの買ってくれたクレープを頬張りました。大好きないづみおねえちゃんと最初で最後であろうプリクラを撮り、お腹も心も満たされたのです。この時は”賭け”に勝ったと本気で思っていましたが、今振り返ると、いづみおねえちゃんはわざと間違えてくれてクレープをわたしに買ってくれたのか、なんて思います。大人になりその時のことを聞いたことがあったのですが、いづみおねえちゃんは「そんなことあったっけかね。私はあなたがテンション上がって”ポニョの歌”を待ち時間、大きな声で歌い始めたのが恥ずかしかったことしか覚えてないよ」と言いました。それはわたしの抜け落ちた記憶。同じ時間を共有しても、お互い印象に残ったものは違うことを実感して、いづみおねえちゃんとお茶を飲みながら笑いあったのでした。

#映画館の思い出

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