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映画「スリービルボード」

すごいな…。何と形容していいかわからないけど圧倒的。何が面白かったとか凄かったとかが説明しづらい。説明しづらい映画って面白い。

舞台はアメリカ南部のミズーリ州。化粧っ気がなく、むっつりとした骨太の女性が田舎道を車で走っていると3つの看板が出てくる。女性はその看板に広告を出したいと代理店に赴き、代金を叩きつけるというシーンから始まる。

3つの看板に掲げられた内容は、彼女の娘がレイプされて焼き殺され、未だ犯人が見つかっておらず、地元の警察署長を名指しで抗議するものであった。

ここで一つ違和感を感じた。被害者の母であるミルドレッド・ヘイズ(フランシス・マクドーマンド)は、娘がレイプされた上に、焼き殺されている。私だったら悲しみや混乱で、それこそ立つことさえできないと思う。正確なことは忘れたが、娘が殺害されてから半年程度しかたっていない母親が、涙も流さずに仏頂面でとにかく怒りを撒き散らす。怒るのはわかるんだけど、普通は怒りと同時に悲しみの感情がもっと前に出てくるのではないだろうか?と不思議に思った。その違和感の正体らしきものは後々明かされてくる。

槍玉に挙げられたのが、ウィロビー(ウディ・ハレルソン)が率いる地元の警察署。ウィロビーは地元の住民からはもちろん警察内部からの信頼も厚い男であり、さらに彼は自身に深刻な問題を抱えていた。

ウィロビーの部下であるディクソン巡査(サム・ロックウェル)は、看板の設置に警察の面目が潰されたと怒り狂い、看板を取り下げさせようと躍起になってミルドレッドにかかってくる。それにも屈指ないミルドレッド。ディクソン巡査は白人至上主義者で、警察官という立場を使い、黒人に暴力を振るうことを何とも思わない人物。自分が気に食わない奴には容赦はない。もちろんそれが女性であっても同じであった。

物語の冒頭では、レイプ焼殺人についての捜査がままならない母親に同情し、「警察、早く犯人逮捕しろよー。チンタラしてんじゃねぇー!」と思うのですが、物語が進んでいくうちにその感情に少しずつ波が立ち、感情に変化が起こってくるのです(もちろん犯人逮捕の願いは変わらないのですが…)。このあたりのだんだん様相が変わっていく感じがとっても面白い。

自分が最初に感じたことが、よくよく突き詰めてみると違っていることがある。自分でも思い当たることがあるが、例えばニュースなどを見ている際、パッと見のインスピレーションで善悪を判断してしまい、その後、情報が出てきたりして「あれ?違っていたな」と思うことがある。そう考えると自分の思い込みを信じすぎるのではなく、疑ってみることや冷静になることが必要なんだろうなと思わされる場面がある。

思うだけならまだしも、発言をしたりする場合は相手があったりするので、きちんと立ち止まって考えてから行動を起こすべきなのだ。一度、口にしたことは取り戻せない。しかし、昨今は政治家なんかが容易に発言撤回をしてくるが、「だーかーらー、一度言ってしまったことは戻らないって! なんで撤回できると思ってるんだろう…」と不思議な気持ちと苛立ちが両方やって来る。

どんなことでも一つ一つの言動に人間の器が試されるんだろうな。「発言を撤回します」なんて言ってる政治家を見ていると『この人、馬鹿なんじゃないか?』と思うもんね。あぁ、怖い怖い。なんでも深く考えず流れや人の感情に飲み込まれてしまうクセがある私には戒めになるな。

さて、この物語の象徴となっている看板。看板には『表』と『裏』がある。この看板は人間の『表』と『裏』を表しているのだろう。『表』が公的な顔で、『裏』がプライベートな顔……。それもなんだか違う気がする。公的な顔の中にも表・裏があるし、プライベートな顔でもそうだ。しかも、どれが表の顔でどれが裏の顔かなんて自分でもよくわからないし、それはとても複雑に絡み合っている。

人間の感情や想いにも表裏がある。『感情』でも『顔』でも看板のように明確な表・裏がないのが人間のやっかいなところであり、面白いところでもある。それこそが人それぞれの魅力でもあるしね。

んーーー、すごいな。いろんな見方や感じ方ができる映画。今までの感想でもこの映画の一部である。一筋縄でいかない映画は本当に面白い! アカデミー賞の候補にもあがってるみたいね。そりゃそう。この宣伝広告もカッコイイ!!

この物語の舞台はアメリカ南部。アメリカの南部と聞くと、差別主義者が多いというイメージがある。今作でもその点は重要なポイントとなっている。アメリカの文化をもっと知っていれば、感じることや理解できることが今より多かったんだろうな。知識のなさが明らかに『損』を招いている。それならば、政治や社会のこときちんと勉強すればいいんだろうけど、そんな気持ちは一瞬で吹き飛ぶのよねー。海外旅行帰りに空港についた途端、英語の勉強への熱意が薄らぐのと一緒だね。テヘッ。

#映画 #コラム #005 #スリービルボード #0212 #2018年

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