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消えた奥歯


今年の目標の一つに「歯の食いしばりと向き合う」がある。


わたしは寝ている時、ギュッと食いしばっている(らしい)。特にストレスが溜まると食いしばっている(らしい)。
※同居人の証言


確かにエラが発達し「顔が四角いなあ」と思うことがよくある。自分の中で痩せている時は、顎が尖って見えるのだが、太ったり浮腫んでいたりすると圧倒的四角になる。


そんな四角い顔を改善するために、年末にはエラボトックスにチャレンジしてみたが効果がイマイチわからず、それならばと歯医者へ行きマウスピースを作りたい旨を伝えた。


私は虫歯がない。どこまでも健康優良アラサー。
そのため歯医者に行ったことがなく、今回初めての歯医者。


近所に見つけた歯医者さんにはおばさん先生と、先生と同じ歳くらいの歯科助手さんがいた。

先生「記憶にあるうち最後に歯医者に行ったのはいつ?」
私「初めてです、たぶん」
先生「エッ...。(沈黙)」


想像以上の沈黙を貫くアラフィフ2人。初・歯医者は「そんなにひくことなのか...?」と焦った。
「祝!歯医者デビュー!」くらいの気持ちで行ったのだが、もしかしたら世間的にはありえないくらい不衛生なことだったのだろうか...と検診台に座りながら自分を恥じる餅のようなOL。


そんな想定外の患者が来たので、当然「マウスピースですね、早速型をとりましょうね」なんてスムーズに進むわけもなく、中学生ぶりの歯科検診から始まった。


「1番..2番...」と順番に呼ばれていく私の歯。異常がある様子もなく、よしよし...と思っていたのも束の間、おや?最後の歯が呼ばれないぞ?先生たち、ザワザワしているぞ?
私の奥歯に何があったのだ?と口を器具で大きく開かれながら焦る餅のようなOL。


椅子を起こしてもらい、口をゆすいだ私を見て先生が言った。

「奥歯が1本ありませんね」


ん?


舌で確認するも、言われてみれば確かに左右対称じゃない。私は左目が二重で右目が奥二重。小鼻も左の方が小さい。顔面左右対称なところがどこにもない上に、口内までもがアシンメトリーだというのか?しかも顔が四角い...。
驚きと共に、自分の外見を瞬時に憂う餅のようなOL。


確かに前歯がすきっ歯で、犬歯の間の隙間が広い。奥の方の歯は大人の歯に生え変わった記憶がない。なるほど歯が1本ないのだからそりゃあすきっ歯になるわけだ。
1人で感心する私をよそに、先生はレントゲン部屋に案内し、手際よく撮影。親不知予備軍がいないことを確認し、その後スムーズにマウスピースの型を取ってくれた。レントゲン台に顎を乗せてる時、先生の「奥歯が1本ありませんね」が頭の中で繰り返され、なんだかおもしろくなってきて1人でずっとニヤけていた。


その後の手続きを待っている間に歯科助手さんが歯石除去をしてくれた。虫歯はなくとも歯石は溜まる。歯石を取り終わった歯科助手さんが「歯石をとったら下の歯もすきっ歯だったね。すっきりしたでしょう?」と言った。歯石をとることで歯と歯の間が開けたようだ。上の歯だけでなく下の歯までもがすきっ歯だった。
歯医者さんには定期的に通おうと思った。



無事、その日の診察を終え会計を済ませ、早速母に連絡した。もし私が白骨死体で見つかっても、母に「奥歯が1本ない」ことを伝えておけば、発見された時に「奥歯が1本ないので娘で間違いありません」と身元確認に貢献できると思ったからだ。


私「マウスピース作りに行ったら奥歯が1本なかったんだよねー、おもしろいでしょ」
母「ママも奥歯4本ないよ」


娘の記録を瞬時に更新してくる母。
奥歯が規定数ない親子。そういう遺伝子?


母「ところで虫歯はやっぱりないの?」
私「虫歯はなかったよー」
母「やっぱり小さい頃から使ってた⚫︎ムウェイの歯磨き粉のおかげだね♪」


ん?⚫︎ムウェイ?⚫︎ムウェイって世間を騒がせたあの⚫︎ムウェイかい?
知らない間にそんな売上に貢献していたようだ。確かにあの爽快感好きよ。ありがとう歯磨き粉。

ただ、マウスピースを作りに行っただけなのに、奥歯がなく、下の歯もすきっ歯で、母も奥歯が4本なく、使っていた歯磨き粉の真実を知った。今まで気づかなかったことがこんなにたくさん勧告されると思わなかった。27年一緒にいる自分自身のことでも、まだまだ知らないことっていっぱいあるのだな。

その後スッキリした清潔な歯を使い、のんきに同居人とお寿司を食べた。
人より1本少ない歯でよく食うもんだ。
歯が1本少ないのだから、歯が1本少ないことを自覚し、歯1本分少食になりたいものである。

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