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読書記録「口福のレシピ」

原田ひ香さんの本が大好きで見つけては購入し読んでいる。
特に「三人屋」はシリーズ2冊めの「サンドの女」も含めつい読み返してしまうくらいお気に入り。

あるできごとやある家族、ある人のことを何人もの視点から語り、物語を進めていく手法がワクワクさせてくれる。登場人物がどういう人間なのか、どういう感情を抱いているのかが一視点よりも深く感じられるところが好きだ。

青山美智子さんも同じような話の進め方をしていたけれど、青山さんの文章はより優しくあたたかかった。

原田ひ香さんの本はあたたかいながらも、ふんわりとした良い話ではなく、喜怒哀楽以外のもっと名前もつかない感情があり、大人の事情があり、それでもなお一生懸命生きていく登場人物たちが好きなのだ。


そんな私がずっと読みたかった「口福のレシピ」

なぜか書店で見つけられず、読みたいと思ってから1年ほど経っていたのだが、「三千円の使い方」のヒットから、よく行く書店が原田ひ香コーナーを作ってくれたおかげでやっと巡り会えた。
ありがとう、これからも通うよ。



※ネタバレ含みます。


もちろんお料理小説ならではの「料理をしたくなる」「美味しそう」という感想は当たり前のように抱いた。なんならよだれが出ていた。朝ごはんを食べずに電車に乗って読んでいたものだから、マスクをしていなかったらバレていたかも。危ない危ない。


今回も家族をテーマにしていて、家族の形を考えさせられた。
留希子と母と祖母と、愛でいっぱいの仲良し家族!などというのではない家族の形。そして大切なもう1人の家族・しずえの真実。

いろんな人たちがお互いを思いやることで生まれたその真実に最後は胸打たれた。


丈太郎の和子さんへの愛と、
和子さんの丈太郎への愛。

もしかしたら、丈太郎さんは愛などというよりも家とか料理への情熱が強かったのかもしれないけれど、わたしはその向く先は和子さんだと思った。

だって家だけだったらさっさと追い出しても仕方がない時代だもんね。家を守りながらも和子さんを守り、そしてその家を守ってくれた福の神・しずえを最後まで守ったんだと思った。そこにちょっと痺れるモノがあった。しずえをただのお妾さんにしなかったところに和子さんと料理への思いを感じたな。



そしてその娘と孫と。
ちょっとずつしずえへの誤解が生じたまま時が流れてしまったけどそれでも大切にされ続けた生姜焼きのレシピ。2人は学園への愛ゆえに留希子の簡単レシピへの怒りが湧く。



留希子は日常の料理を愛していて、自身で作ったレシピを忙しい人たちに手軽に試してもらうために広めようと世に発信しただけだったから、2人の怒りが理解できていなかった。
けれど、真実を知ることでその怒りの理由を理解したところがよかった。みんなそれぞれ、料理への考えた方は違うけれど、それぞれに料理を愛していて、それを遠回りだけど理解し合うことで雪解けていくところが今回の作品の好きなところだった。

視点。理解。愛。
視点を変えて、相手を理解し、そしてそれを愛すること。


たぶん原田ひ香さんの作品の好きなポイントはこの3つなのかもしれない。
わたしが日頃、大切にしようと思っていた3つを文章として形にし、冷たく見える関係を、あたたかい家族にしてくれるところが好きなんだと思う。


もしかしたら自己投影なのかもしれないね。ぴよぴよ


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