精神科を転院したら院長にドン引きされた話①

・先週の土曜日は祝日だったため、精神科が休みだった。かねてより時間通りに指定の場所に行くことがストレスなので、「ウィス!やってる?!」っつー居酒屋のようなノリで通院していたのが仇となったわけだ。すごすごと無駄足を踏んで帰り、常用しているレクサプロなしで一週間を過ごすハメになった。
まあ一週間くらい大丈夫だろう。最近は比較的元気だしね。

・レクサプロとは鬱治療に使われる薬である。主治医からは「心にバリアを張る薬」だと説明されている。投薬して2年。自分を客観的に見ることができるようになり、情緒は一定に保たれた。薬学は最高。全ての聡き研究者に幸あれ。

・しかしレクサプロなしのこの一週間はまさに情緒のドン底で(情緒ってドン底になるもの?)、胸の奥には重たい空気がわだかまり、目の奥は待機中の涙で重く、二週間近い便秘で腸がパンパンという有様である。人は限界になると、感情じゃなく物理で膨らんでしまう。まるで歩く腐乱死体のようだ。何の前触れもなく泣き出し、道の真ん中でであーだのうーだの呻き声を上げ、ガタガタ震えながら電車に乗った。文字に起こすと相当ヤバいですね。コワ……

・3年前、絶望の淵にいた私は、出勤前に玄関で靴を履こうとかがんだ拍子に玄関マットに顔をこすりつけて号泣した。24時過ぎに帰宅し、明日の仕事の準備をしながら、夕飯の代わりに左腕を噛じった(食欲がないので)。お湯の溜まっていないバスタブにうずくまって、健在すぎて病気の知らせもないのに父親の死を悟って3時間泣き続けた。いつも髪を掻きむしり深爪になるまで爪を噛み、2年住んだ部屋だが後半の1年間は1度も掃除をしなかった。家にいる時間は8時間なのに、毎晩タバコを一箱開けた。今思えばアルコールが飲めなくて本当によかったと思う。アルコールが多少なりとも飲める体質だったとしたら、もう私はこの世にはいないだろう。

・転職して引越しもして、パートナーと暮らし始めた。やっと精神科にも通い始め、投薬(レクサプロ)のおかげで、私は憎悪と絶望で出来たどす黒いモヤから人間のカタチに戻ることができた。

・そこで1週間のレクサプロなしチャレンジが始まる!投薬期間は2年間!!先週は仕事の忙しさと、真後ろの席で毎日のように新卒を怒鳴る偉い人に怯えつつもケーキを食べたりして自分のご機嫌をとっていた。コンディションはやや悪である。不安の残るスタートだが頑張るぞ!

・月曜日、まずは食欲がなくなった。食べ物のことを考えても扁桃腺がギュッと縮んで胃のあたりが重たくなる。口の中がイヤ〜な唾液で一杯になるのは、喉の奥に指を突っ込んだような、という例えが1番的を射ているだろう。無論口の中には何も入れていない。

・就業中、自分が何をしていたのかわからなくなることが多くなった。直前までやっていた作業がフ、と頭から抜け落ちる。この画面が何を意味しているのかわからない。マウスを握ったままフリーズして、どのくらい時間が経ってしまっているのかもわからない。

・トイレから戻ることができなくなった。便器から降りてもなお便器にすがりつき、扉の鍵を開けることができない。扉に手をついて数分、やっと個室から出られたと思ったら洗面台で何十分も冷水で手を洗う。感覚がなくなるまで流水に手を浸し、次は化粧直しの鏡の前で二の腕に爪を立てる。そんなのいいからマジで仕事をしてくれ…と情けなさで鏡の前で顔を覆って泣いた。

・ノーモーションで泣くことが多くなった。何の前触れもなく涙が「ツー…」と出るやつ。あまりにも静かに涙を流しているので、就業中私に声をかけたら振り向いた私が号泣しているなんてことがザラにあるわけだ。マスクはしているが相当イヤだったろうなと思う。新しいタイプの妖怪。驚かせる手法がのっぺらぼうと一緒。

・そして、とうとう突然声が出なくなった。家でパートナーと話をしているとき、突然息を吐くことができなくなり、頭の中に言葉は浮かぶのに発語ができない。返事をしたいのに声が出ない。オ!?これが噂に聞く「失語症」というやつか…!?と思いつつ、めちゃくちゃ厨二病みたいで恥ずかしいから早く治ってくれと祈った。部屋中から精神安定剤をかき集めて服薬し、一晩寝たら普通に声が出た。失語症、「ソレ」っぽすぎてマジで恥ずかしくないですか?現在の職場で「聞いてきてくれる?」「確認してきてくれる?」と言われるのが苦痛だった。何を確認すればよいのか漠然としているし、聞きに行く相手は死ぬほど忙しそうだし、結局聞いてみたとしても自力で解決できることが多々あるから。そういう時、ヒュッと息を吸って吐けなくなることがある。なかなか席を立てなくて、横隔膜を震わせながら呼吸が落ち着くのを待っていた。いざその場に行って「すいませぇん」と申し訳なさそうな笑顔を作ればスルスルと言葉は出てくるのだが、上から下まで内臓が収縮する居心地の悪さは特有のものがある。

・職場はスーパーストレスフルなので何が起こっても驚かないが、今回言葉が出なくなったのは自宅で、相手は気心知れたパートナーである。「そうだねえ」「いいねえ」「最高だねえ」の一言が浮かんでは気道で詰まって胸に溜まっていく。健気なパートナーは私を笑わせようとして、ない話や犬の話をしながら大丈夫と笑ってくれていた。終わっていてごめんな。

・薬を切らして一週間経った土曜日、予約をしていた精神科に行った。精神科自体を変えようと思ったのは、あまりに仕事にミスが多いのでadhdを疑ったから。今思えば私はadhdに当てはまる項目はほぼないのだけれど、本当になんでもいいから何かに縋って楽になりたかったのだと思う。

・病院に行く道すがら、泣きながら歩いた。泣きながら歩くのは久しぶりだ。昔は毎日のように泣きながら帰宅していた。

・ガタガタ震えながら問診票を書いた。右手が震えるようになってどれくらい経つだろう。貧乏ゆすりのように激しく手を振るわせながら、問診票に丸をつけていく。動悸がするか、便秘かどうか、性欲はあるか、突然泣き出すことがあるか、自分がいなくなった方が周りは幸せに暮らせると思うか。

・自分がいなくなった方が周りは幸せだと思うか。答えは「とてもそう思う」だ。

・診察室に通されて見せられた問診票の鬱スコアはとんでもない数値を叩き出していた。

②につづくよ

エッセイ ってタグなんかしゃくに触るな!!

#メンヘラ
#鬱病
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