着られるケーキの店「ウェアラブル」

 今日紹介するケーキは少し変り種だ。ケーキには一つの問題がある。みなさんもいつも苦労されていることではないでしょうか。そう、ケーキはとても壊れ易い。箱に入れても持ちにくく、ちょっとした衝撃で中身がバラバラになってしまう。自宅に持ち帰っていざ食べようと箱を開けるとめちゃくちゃになっていた経験は一度や二度ではないはずだ。お客さんにそんな悲しい思いを二度とさせたくない。立ち上がったのが「着られるケーキの店・ウェアラブル」店主、外装着太郎(がいそう・ちゃくたろう)氏だ。ケーキを着る事ができればなるほど、身体から離れたところで箱を運搬する必要がなくなるのだからケーキの安全性は格段に上昇する。見ればほとんど服そのもののように見える。開発には相当な苦労があったのではないだろうか。

 「そうですね。確かに当初はクッキーを数珠繋ぎにして鎖帷子状にしてみたりしました。しかし、そうすると下の方のクッキーがすぐ千切れてしまうんですよ。それに雨。小雨の時にクッキー帷子着て帰ったお客さんが全裸で戻ってきましてね。雨で全部溶けたって言うんですよ。これは一筋縄ではいかないな、そこから意識が変わりました」

 その後、彼は発想を変える。ケーキをよって一本の繊維にする技術を開発したのだ。このケーキ繊維で服を作ることでケーキは飛躍的に軽く、そして雨にも強くなったのだ。しかし見た目は完全に洋服である。少し袖口を食べてみようとかぶりついてみるとほんのり生クリームのような口当たりがあるが、基本的には服に噛み付いているような感覚だ。店主は苦笑いしている。

 「うちは『着られるケーキ』の店ですからね。『食べられるケーキ』とは言っていないんですよ。ケーキが食べたいんでしたら、駅前のコーヂーコーナーなんかいかがですか?僕はあそこのチーズケーキに目がなくって・・・」

 ケーキを超えようとしてケーキを超えた男が行き着いた先は、ケーキではない世界だった。皮肉な話もあったものだ。買って帰った着られるケーキは雨には強いが洗剤には弱かったようで自宅で洗濯にかけると消え去ってしまった。一緒に洗った他の洗濯物がすべて生クリームまみれになっていた。

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