砲弾ケーキの店 「ブレット」

 店の扉を開けるとあまり他の店にないものがケーキのショーケースに入っている。日本では特に見かける機会は少ないだろう。弾丸だ。 筆者はハワイで一度見たことがある。 この店はケーキを弾丸にして販売している一風変わった趣向の店なのである。食べ方も変わっていてケーキ弾を詰めた特製のケーキ銃を数十メートル離れたところから口の中へ撃ち込むのだ。シューティングレンジを模したイートインスペースでシェフに撃ちこんでもらったのだが人から銃口を向けられるのはあまりいい気分はしない。間抜けに口を開けてシェフの方を向いていると「いきますよ」の後に乾いた音が「パン」と一つなった。気のせいか風圧を感じたが全く何の味もしない。ヘーゼルナッツチョコレート味の弾丸だそうだ。ほんのりそれらしい香りはするものの火薬の臭いの方がきつい。このケーキを「味わう」ためにはマシンガンのようなもので口の中へ連射してもらう必要があるのかもしれない。だがシェフは味わいよりも己の信念を大事にする人物用のに見えた。

 「私はこの銃を世界中の紛争地帯に配りたいんです。お互いを思い合うための銃として皆が照準を相手の口内に合わせるのです。こんなに幸せなことはないでしょう」

 実際、彼はインタビューの数ヵ月後に数万丁にも及ぶケーキ銃を紛争地帯に持ち込み配り始めた。子供達は新しい武器を手に入れ、喜んで戦場に持ち込んだが所詮は見た目だけのおもちゃの銃である。敵からは実銃とみなされ一方的に本物の銃で撃ちまくられて大量の死者が出たそうである。子供達の親は怒り狂い、彼を捕縛すると長く陰惨なリンチの末に実弾を口の中に撃ちこんで殺してしまった。その後、彼の妻は彼の高邁な志を受け継ぐため戦場に立つ事になる。戦場に咲く一輪の花「ケーキパンサーおりょう」の誕生秘話である。

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