AI用ケーキ「バーチャルボーイ」

 ケーキは人間が食べるもの、そんな先入観はないだろうか。確かに最近はペット用のケーキなど人外でもケーキを食べる傾向はある。だがこの店は更に「先の人類」相手の店なのかもしれない。店の名は「バーチャルボーイ」気鋭のパティシエ兼天才プログラマーの電脳筋太郎(でんのう・すじたろう)氏の店だ。

 「人類が、これからも文明の中心で在り続けるとお思いでしょうか?これからはAIの時代が来ます。そしてAIは人類に取って代わり『新しい人類』としての役割を担うのではないでしょうか。その時に、彼らが人類にとってのケーキに当たる娯楽を求めることは想像に難く在りません」

 彼が売っているケーキはすべてデータである。三次元にモデリングされたケーキの中に「味」と呼ばれるデータが入っている。複雑なコードを好む顧客のためにスパゲティコードを内蔵した商品も用意しているとか。店頭でも販売しているがネット上での販売が主だという。

 「新しい人類がフィジカルボディを持っていない可能性があります。むしろ持っていない可能性が高い。実店舗はそれでも半分AIになった現人類の人々には需要はあるでしょうから残しています」

 しかし、生身の人間では一切食べることができないケーキ、需要はあるのだろうか。

 「今のところ一人もいらっしゃいません。まだAIは未発達で『新しい人類』と呼べるまでに進化していないのです。ですが、私は未来に賭けているんです。新しい人類の最初の友でありたいと思っているのです」

 オープンからわずか数ヶ月「バーチャルボーイ」は多額の負債を抱えて倒産した。未来の友は、現行人類の友にはなりえなかった。

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