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旅を終わらせる #エッセイ

旅を終わらせるのには時間がかかる。
家に帰って、部屋の淀んだ空気を取り除き、鞄を開けて荷物を取り出していく。洗い物は洗濯機に、レシートは家計簿に。そんなことをやっていくと、床がいつのまにか散らかっていて自分の心のようだと思うのだ。
とりあえず全部机や作業台の上に置いてはみるのだが、そこからまたとっておくものや捨てるもの、書き留めておくもの、そのようなものを整理するのに少し時間を必要とする。

名残惜しいのだろうか。手放したくないのだろうか。旅は私の手元にまだ終わりながらも漂っていて、片付けない机を放置したまま出勤する。帰宅するとまた旅が私を迎えてくれる。
やっていないことをやっていない罪悪感に駆られて、少しずつ物を片付ける。机が綺麗になる頃には旅は過去の一コマとなり、次の旅を私は思い描くのだ。

時間がかかってもいいのかもしれない。誰もそのことでは不幸にならないのだから。そんなことを思いながら、私は手元の旅をもてあそんでいる。

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