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7/28 『クレイジーDの悪霊的失恋』を読んだ

マンガ版は『クレイジー・D』でDにダイヤモンドとルビも入っているが、小説は『クレイジーD』なんだな。この表記の揺れ、何か意味があるのだろうか。
マンガ版の方を先に読んでいたが、小説版も大筋は変わらない。仗助とホル・ホースのやりとりにより多く紙幅が割かれていて、このコンビの相性の良さがさらに引き立っている。まあ相性というか、たまたまホル・ホースが仗助の機嫌の荒波をうまくいなせただけのようにも見えるが。はじめ、今回のスピンオフの主人公がホル・ホースであると聞いたとき、いやいやシブいチョイスにも程があるっつーか、何だってコイツを主役に選び、しかもそれを4部の面々と結び付けるのか、できるのかそんなことが——と思ったものだが、これがまあ、運命のようにすっぽり収まってしまうのだから舌を巻く。「ダ・ヴィンチ」のインタビュー記事(https://ddnavi.com/interview/1145269/a/)で、「ジョジョの小説を書くことは歴史小説を書くことに近い」と言っていたが、実に言い得て妙……というかあらゆる原作のマルチメディアライズにおける方針として、蓋し最適解なのではないかしら。原典を尊重しつつ、闊達な想像力で空白を埋める……時には空白をねじり込むようにしてまで。花京院涼子なんて、ほとんど夢小説二次創作のようなオリジナルキャラクターなのに、もはや原作にいないと考えることのほうが難しくなってきている。ホル・ホースも、こうして読み終えてみれば確かに3部の敵たちの中でも異質な造形だったなと思えてくる。一度の戦闘でリタイアしないし、更にはDIOの配下のままでありながらDIOに牙を剥こうとするなど、際立っている。「世界一女に優しい男」という自称は正直忘れていたし、それがここまでキャラクターの核になっているとは思わなかったが。
と、描写の量こそ増えていたが、小説版はマンガ版と比べて、仗助とホル・ホースの奇妙な友情よりも、むしろ仗助と涼子の奇妙な恋情……未満の触れ合いのほうに重点が置かれていたようにも感じた。というかもう、東方仗助という「怪人」の不可思議さにスポットが当てられていた、というべきか。コイツも立派に杜王町の怪異に数えられるべき一つなんスよ、と。相反する激情を両の眼に宿すとか、恐怖への躊躇いが一切なく「何かが断絶している」とか、ホル・ホースの仗助評は、まるで世界の敵のそれである。だがそんな仗助に「正義」を教え導いているのが祖父である東方良平で、これがまあほんとに素晴らしいお人柄。アバッキオも最敬礼。4部屈指の謎と言っても過言ではない仗助の髪型の由来は、子供の頃に自分を救ってくれたヒーローの影響で、しかしそれは本作においては涼子にインスパイアされてでっち上げた方便であり、さんざん言及されるものの結局謎は明らかにされず……となっているが、そこにひとつだけ真実があるとするなら、仗助にとって「子供の頃のヒーロー」がいたとすれば、それは間違いなく東方良平だったのだろう。
他にもごまんとネタが仕掛けられており、おそらくそのすべてを把握しきれてはいない。今回の敵たるアルティメット・シィンガーが、アルティメット・シィングをもじってるのもすぐには気づかなかったし。前作『恥知らずのパープルヘイズ』にも増して上遠野浩平のジョジョファンとしての年季、あるいは『覚悟』の入り様を見せつけられた感がある。にしても章前パラグラフを利用して、ジョジョ4部どころか『ピンクダークの少年』のノベライズにまで手を出そうとしてくるのは、ヤベェ決まり方をしてると思いましたが。

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