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税金雑学シリーズ〜税務署の誤指導②〜

 今日は前回の税務署の誤指導の続きで、実際争われた事例から税務署の誤指導が認められなかった事例と認められた事例をそれぞれ紹介します。

神戸地裁昭和58年8月29日判決


1 概要
  事業用土地建物の買替えをした納税者が税務署から”呼び出し”を受けたため、
 その買替えに係る売買契約書等の資料を一式揃えたうえで税務署へ臨場し、税
 務職員との質疑(申告書の具体的な記載方法についてはある程度前提の知識が
 あったため、担当職員に質問又は相談を行っていない。
)を経たうえで、税務職
 員から交付された申告書類一式を使い確定申告したところ、後日誤りがあると税
 務署から指摘され、修正申告書を提出し、これに対して過少申告加算税が課
 された事例

2 裁判所の判断
  納税者が提出した申告書の記載内容に誤りがありことは明らかであり、その記
 載誤りは納税者本人からの尋問の結果からも、税務署の担当者が申告書の記載方
 法についてことさら誤った指導をしたことによるものとうかがえない
。納税者が
 言うように税務職員が何らの説明を行うことなく納税者に対して本件明細書(申
 告書の一部)を交付した事実が存在するとしても、これをもって誤った説明をし
 たものと同視すべき事由とすることもできない


 不動産の譲渡を行うと、不動産登記簿の動きから税務署は「お尋ね」という文書をその所有者に送付して申告を促すようなことを行なっています。
 今回は、ざっくりいうと、そのお尋ねによってわざわざ税務署へ呼び出され、その譲渡の概要を相談したうえで申告したにもかかわらず、「間違ったのは自己責任だ!」と言われた事案です。
 普通の感覚からすると、「わざわざ書類まで揃えて相談しに行ってるんだからこっちから聞かなくても税務署の側から記載方法まで説明しろよ!」と思いますが税務署にそのようなサービス業の精神を求めてはいけません笑
 限られた人員で数多くの納税者を相手にしなければならない税務署という立場からそのような帰結にならざるを得ないところですし、やはり無料だからこそそれ相応のクオリティーになってしまうとも言えるでしょう笑
 
 この事例から学べることは、裁判所が「(税務署は)聞かれてないことまで答える必要性はなく、聞かれたことに対する指導が誤っているか否か」で判断しているところから、税務署に対して質疑を行う際は、個別具体的な事項を一つ一つ質問し、回答させていくことによって、万が一誤りがあった場合には加算税や延滞税といったペナルティーを免れることができる可能性は高くなるという点です(ただし、その相談過程も具体的にメモ書き等で残しておくことが望ましいです)。

 まあ、もちろん何をどうすれば良いのかわからない時は当然それに係る個別具体的な質問をすること自体が困難なので、ある程度大きな金額の取引をするような場合にははじめから税理士へ相談した方が無難ですね。

那覇地裁平成8年4月2日判決


 1 概要
  納税者が税務署に対し株式売買について、「どのような場合に所得税の
 申告をしなければならないか?」と質問したことに対して、税務職員が「50
 回以上20万株以上の売買があり、利益があった場合に限って所得税の申告を
 要する」との回答を受けたこと(日を改め合計3回電話と窓口にて同様の質疑応
 答が行われた)に基づき、本来申告義務があったにもかかわらず申告をしなかっ
 たことで、後日税務調査において本税と無申告加算税が課税された事例

 2 裁判所の判断
  納税者が株式売買による所得を申告しなかったのは、故意に隠したものではな
 く、3回にわたる税務署への問い合わせに対して各税務職員が税務官庁の公的見
 解とはいえないとしても、いずれも誤った回答をしたことにその原因がある。と
 するならば、前記した過少申告加算税の趣旨からすれば、納税者にこれを課すの
 は酷に過ぎ、相当でない。


 まず、納税者と税務署間の質疑が現在の法律からすると意味不明かと思いますが、昭和63年の所得税法改正前においては、株式売買について一定の非課税枠が設けられており、その非課税枠について税務署が誤った指導を行ったという事例です。

 この事案では先ほどの神戸地裁での事例と異なり納税者が「株の売買はどのような場合に非課税になるか?売買回数のはどう数えるのか?」といった具体的な質問を行っており、税務署はその具体的な質問に対して課税となるべきものを非課税になるという誤った回答を行なったことが事実として認められています。

 やはり、先ほどの事例から学べるポイントのとおり質問を具体的にしつこく行うことが重要なようですが、この裁判例で一つ注目すべき点として裁判所が認めた誤指導の事実については、おそらく納税者の主張によってのみ認められているという点です。

 というのも、裁判の過程で税務署側は、この争っている納税者から上記のような相談があったことについて、相談があったとされる各税務署の相談記録の調査及び統括官と担当者へのヒアリングを実施したものの、相談の事実は認められなかったという主張をしていました。

 にもかかわらず、裁判所が納税者の主張を事実として認定しているのは、裁判官を信用させる程の具体的な質問履歴を残していたからではないでしょうか。

 税務訴訟は基本的に民事訴訟と同じルールに基づいて行われるため、事実認定については自由心証主義すなわち、「事実認定や証拠の評価については裁判官の自由な判断に委ねられる」ため、税務署側の記録がない場合や音声記録がないような場合であっても裁判官を納得させるだけの事実を伝えることができれば良いのです。

 そのため、税務署へ相談する場合には具体的な質問をしつこく行うと同時にその履歴をメモとして細かく残しておくことがより有効になってきます。
 

 以上のことから、税務署のご利用は計画的にされることをお勧めします笑


最後まで読んでいただきありがとうございました^ ^


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