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ある日の午後。

秋を通り越して、空気が冬の気配を感じさせる快晴の昼。
低気圧がやってくる、前日の昼。

目の前に、appetizer。
カラフルな野菜たち。
白いお皿に、アートのように散りばめられている。

シャンパンのグラスに光が差し込み、泡がキラキラと輝いている。空気が澄んでいて、その光がより輝きを放って見える。  



けれど、心中穏やかでない。
目の前には、夫ではない男性。
都内ホテルのレストラン。

いつ誰に遭遇するか、誰に見られているかわからない。声をかけてくれればまだよいが、遠目から見て、妄想を掻き立てられたら。
ありもしない、あらぬ噂を広げられたら。


そんな思いもあってか、運ばれてくる上品なお料理。素材やドレッシング、香辛料。いろいろいろな味がするものの、それに酔いしれることはできない。何だかソワソワとしている。
けれど、どこか浮き足立つかのように、ドキドキもしている。




それでも、今日は彼と食事がしたかった。
何とも不思議な感情。


夫、子ども。彼らの顔がちらつく。
奥さんが、お母さんが、昼間から男性と食事をしている。
家族で出かける時とは、ちょっと異なるオシャレをして。

朝の洗顔後、パックを2枚重ねにして、入念にに保湿。ほんのりイランイランの香りがするボディクリームを、全身に滑らせる。




私は一体、何をしようとしてるんだ。
これで、本当にいいのか。
いや、自分の殻を破るんだ。

先に裏切ったのは、夫の方だ。


当てつけなのか。
本当の願いなのか。



これまで、いろんな恋をしてきた。
自分のしてきた恋愛を、目的地に向かう電車のなかで振り返ってみる。

大それたストーリーはないけれど、楽しかったこと、叶わなかった願い。幸せだった時間。傷つけ傷ついたこと。

40も過ぎれば、そこそこいろいろな経験があるものだ。
心に悲しみや後悔がない人なんて、いないかもしれないとすら思う。


結婚、夫婦という関係性。互いの過去、現在、未来。
行動と心と貞操概念。

今年ほど、そのことを考えた年はなかった。


きっとこれからも、いろんなことがある。
いろんなことが、あろうとしている。



自分の人生。
この先に、何を望んでいるのか。

自分の気持ちに、素直に生きてみる。


彼の手は、大きくて、厚みがあって、あたたかかった。

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