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【連載】還らざるOB(9)

 二泊三日の旅行であった。

 台北に着いたその日は、鼎泰豐(ディンタイフォン)で昼食をとり、龍山寺でエネルギーを注入した八人はいたって元気だった。その後淡水に移動し、屋台で食べ歩きをした。

 その夜、羽田が腹痛をうったえた。野森が持参した日本の正露丸を多量に飲ませ、何とか収まった。

 二日目は、国立故宮博物館の展示物を見学。昼は近くの料理店で台湾料理を堪能した。午後から九份に移動し、街並みを観光した。皆は感動していた。

 三日目は、日本へ帰る日であった。午前十時にホテルをチェックアウトした八名は、観光もせず、林森北路にある店で、昼ご飯兼用の飲み会を挙行していた。

  台北桃園空港をその日の午後一番に日本に向け出発する飛行機があった。
 彼ら八名は、その飛行機の出発時刻が近づいているにもかかわらず、その店で宴会を始めたのであった。
 台湾のお酒(高梁酒)はアルコール度数が高い。八名はかなり酩酊状態であった。つまり時間の経つのも忘れるほど飲みすぎた。
 通常であれば、その中の誰かがフライト出発時刻を気にしているのだが、よりによって野森がその時酔いつぶれ眠ってしまった。
 旅行日程の一切を野森に頼っていたほかの七名は飛行機の出発時刻が近づいていることなどすっかり忘れ、飲んだくれていた。
 田川だけはアルコールを飲んでいなかったが飛行機の出発時刻を失念していた。

 そして、居酒屋で些細なことから田川が見知らぬ台湾の男性と口論となり、他の六名と目が覚めた野森が喧嘩に加勢したため、大立ち回りとなり、五人の相手グループに怪我人が出てしまった。
 地元の警察官が多数出動し、彼ら八名は全員逮捕され、台北北警察署に拘留されてしまったのである。そして、彼らが乗るべきはずの飛行機にも乗ることが出来なかった。

  ほどなく、彼らが乗る予定の飛行機が墜落した。との報道がテレビ画面のテロップで流れたが、台北北警察署に拘留された八名は知る由もなかったのである。

  台北桃園空港内は大騒ぎとなり、非常な混乱状態に陥っていた。

  彼ら八名は俗世間から隔離された留置所で数か月を過ごすことになった。
 台湾の法律では、傷害罪は刑法第二百七十七条で三年以下の懲役か罰金となっているが、彼らには支払うお金もなく拘留され、その後起訴 裁判となり、相手グループの証言でどうにか釈放となったのであった。

 

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