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【短編小説】情報通(第四話)

 どこにでも情報通はいるものだ。
 近隣の話題に詳しいのである。
 どこで仕入れてくるのか。
 会社の近所の事に詳しい。その界隈の昔の話しやら、最近の話題などよく知っている。
 そのビジネス街に引越ししてきてから、既に十年近くになるある会社の社員の中の一人がいわゆる情報通なのだ。
 本人曰く、
「情報収集は、近所の人と仲良くなることだ。
 気さくに話し合える心掛けを持って接することだ」と自慢げに話す。

 これから書く事は彼から聞いた話である。

 第四話(1)

 その会社が入っているビルを右に曲がり、暫く歩くと十字路に出る。
 その右角の建物が、建築資材関連を販売している商社である。
 社長は婿養子である。
 その社長の奥さんは、その商社の専務として経理関係を担当している。
 会長の娘さんなのだ。その会長は厳格な方で、紳士である。
 当時、娘さんの結婚相手は他の男性に決まっていたようだが、その相手が養子を拒み、見合いで、いまの社長と結婚した。

 会長の子供は、娘さん(専務)一人である。
 好きな人と結ばれなかったことで、娘さんは、当時たいそう悩み精神的に不安定になったりもした。その時、娘さんの悩みを聞き相談に乗ったのが、設立当初からいた女性事務員のNさんという方だった。
 そのNさんは、娘さんが今の社長と結婚して、三年後に病気で他界してしまう。
 Nさんは生涯独身を貫いた人であった。
 娘さんは、Nさんの入院先に足繁く通って看病した。
 Nさんを通して娘さんは、生と死、そして人間の心の深さ、情の大切さを学ぶのであった。
 娘さんはNさんの分まで、強く明るく生き抜こうと思った。
 社長との間に女のお子さんが授かり、暖かい家庭を築くことが出来た。

 その会社は、社員を大事にするのが社風で、皆、生き生きと仕事をしている。
 年に一度、社員旅行がある。
 先日も千葉の房総方面に、バスをチャーターして行って来た。
 一泊二日の工程であったが、夜の宴会のあと、社員同士のトラブルがあったらしい。その際、社長が二人の社員をなだめて、わだかまりを払拭したのであった。
 いーい会社です。

 
 

 第四話(2)

  

国稀(北海道)

 その会社のビルを出て左方を歩き、交差点をしばらく進んだ左側、ビルの一階に大衆酒場がある。
 屋号は河越屋という。
 ママさんが切り盛りしている。厨房には旦那さんか他人か、見分けが付かないが、料理長? が厨房で働いている。
 とにかく料金が安い。
 少ない給料で働いているサラリーマン諸氏には、非常に良心的なお店である。
 ママさんは近くのマンション住まいで、毎朝九時頃店に出勤して、店内の掃除やら片付けをする。料理長? は午前十時ごろ出勤して昼ランチの仕込みをする。
 午後の二時頃、一旦お店を閉めて、五時ごろ夜の営業である。
 夜の十時半頃まで営業している。ただオーナーはいまだに判らないのである。
 ママさんは口が堅い人だ。客の話を何気なく聞いているが、他の客や同じ会社の他の人間には一切話さない。当然のマナーではある。さっぱりとした方で、清潔感が漂うママさんだ。
 最近まで、アルバイトの女性を雇っていたが、不景気のせいもあるのだろう、今はママさんだけで切り盛りしている。
 他の客が誰もいないとき、身の上話を情報通にしてくれたことがあった。
 五十代半ばの年齢のようだが未だ独身とのこと。てっきりどこかの奥様かなと思いきや違ったようである。
 寡黙な方で、美人系である。
 客商売に向かない性格が、却って客の受けがいいのだ。
 これからも会社勤めの間は宜しくお世話になります。
 との事。

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