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晴れのち桜(仮)続き

 幸一は、聡と早く咲き始めた桜をいつまでも眺めていた。空は晴れていて春の日差しは二人に降り注いでいる。まるで、幸一の病んでいる心を癒やすかのように……。
「幸一」
まだ、五分咲きの桜を眺めながら聡は幸一の名前を呼んだ。幸一は、もう一度、聡の顔を見直した。
「なんだよ、分かってるよ、でもさ、やっぱり精神病に対する偏見は厳しいんだよ。君ら、健常者とは違うのさ」
幸一は、どこかよそよそしい顔を聡に対して浮かべながら桜の木の下に立っていた。聡は返す言葉もなくただ、一緒に桜を眺めるだけだった。
 

 幸一が体調を崩した十年前聡はちょうど、目の前にいた。一人暮らしをしていた幸一は行きなり暴れだし、自殺未遂を図った。それを止めたのが聡だった。聡は救急車を呼び、それから幸一は精神科に入院をした。その時も桜が咲く四月の始めの時期だった。
 散々暴れた幸一は、病院で鎮静剤を打たれ、落ち着きを取り戻していた。静かな環境の病室に暫く意識のないような状態で眠っていた。
「大丈夫ですか?」
担当医はベッドの上の幸一を見つめ診察を始めた。病室は静かで隣に誰か眠っている。幸一は意識がハッキリとしていく中で頷いて見せた。
「大変でしたね」
幸一はまたも頷く。幸一は窓を探すがこの部屋に窓は一つもなかった。それでも、冷静な担当医の診察は続く、
「今日から入院ですからね」
幸一はいまいち現実を受けいられないまま頷いた。
「じゃあ、僕はこれで」
担当医は白衣を正し幸一の目の前からいなくなった。幸一は、隣のベッドを見た小柄な女性が眠っていた。「この人も暴れたんだろうか」「この人も自殺未遂を図ったんだろうか」と想像を巡らせた。
 暫くすると、幸一は別の病室に移されそこには窓もあり3人の病人がいて一緒に寝食を共にすることになった。



 続くかも……。

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