花園 1

初めての百合小説
長いので分割
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   花園

「いらっしゃい。また来てくれたのね」
温室の壁には黄色い百合で作られたリースが飾られている。
木々に覆われた花園。
小さめのカートから二人分のスープとサラダとパンを取って、白いテーブルに並べて遅めの朝食を取る。
「今日もお話しできる?」
「うん」
「何時まで?」
「今日は休みなの」
「そうなの?」
「うん。誕生日だから」
「そうなの?何か用意しておけばよかった。なにもないの」
彼女は空になった食器をカートに移す。
「いらない。それよりお話しよう。この前の続きの話も聞きたいし、あなたのことも知りたいの」
「私でいいの?」
「うん。食器を戻してくるからその後お話しして」
私がカートを押そうとしたら温室のドアが開いた。
ハギマヤさん、私の二つ上の先輩。
「料理長から食器の回収を頼まれたの。お昼はまた持ってくるね」
ふわふわの髪を揺らしてカートを押してさっさと行ってしまった。
「この間の続きよね。私の部屋行こ」
彼女に手を引かれて、さっきと反対側のドアから外に出る。
ほんの数百メートル歩いて、小さいけど綺麗な小屋に着く。
十数年前に彼女のために建て替えられたという小屋。
小さいけれど人一人であれば十分暮らしていけるようなものだった。
二階の部屋にベッドがあってそこに二人で腰掛ける。
「前話した私の母が持っていたネックレス、こんな感じだったの。実物はないから思い出して描いたんだけど、とても綺麗だったの」
「この宝石はなんて言うの?」
「ええと、確かスファ、スファレ、ライト?って名前だった気がする。とても綺麗だったの。……ジャクルの目に似てる。とても綺麗」
「あなたの目も綺麗よ?ルビーみたい」
「あら、ふふ、ありがとう」
「ねえ、名前はなんて言うの?」
「……そういえば言ってなかったね。私はスズカイラ。スズって呼ばれたりカイラって呼ばれたりしてるから好きに呼んでね」
「なんで私の名前知ってたの?」
「あなたがここに来てすぐの頃、会ってたよ。放心していたから、覚えていないだろうけど」
「いつからここにいるの?」
「あなたが来る七年とちょっと前」
「いくつなの?」
「さあ、分からない」
「冬を何回越したの?」
「分からない。長くどこかに閉じ込められていたこともあったから」
「……こっちの目はどうしたの?」
カイラの左目には包帯が巻かれている。
そっと触れば、上から手を重ねられた。
「これはね、怪我したの」
そうして手をおろさせられた。
「ここに来るまではどこにいたの?」
「いろんなとこ。母が死んでから、五つの時かな。それぐらいから、いろんなとこに売られて、十二年前に奥様に買われたの」
「男性恐怖症になったのは、その時?」
「旦那様から聞いたの?」
「うん」
「そう、ね、怖いの。旦那様も、料理長も、他の執事さん達も、優しい人達って分かってるけど、話せないの。どうしても、会ったら身体が固まって何もできなくなるの」
「ダツラは?よくここに来てるって言ってたけど」
私より四つ下の男の子。
今は隠居された、花園以外を手入れしていた庭師さんのお孫さん。
「ダツラはね、女の子のフリして会いに来てくれるの。数日に一回ね、メイド用の服やお嬢様の服を借りて、お化粧までして来てくれるの。お化粧はあまりに似合っていないから毎度落としているけど。そこまでしてこなくてもと思うけど、話したいからこの格好をしてるとまで言われたら無理に止めさせるのも悪いし。たまにお嬢様と一緒に来られることもあるの」
「お嬢様も来ているの?」
「そうよ。よく手作りのお菓子を持ってきてくださるの。初めは難しかったけど、ダツラとはお話しできるようになってきたの。庭木を手入れしてるときに会っても気にせずに話せるくらい。ちょっとくらいなら他の方ともお話しできそう」
「じゃあ今度屋敷の方に行ってみる?」
「え、それは、ちょっと。まだ難しいかも。せめて一人ずつじゃないと」
「じゃあ今度誰か連れてくるね」
「うん」
「好きな食べ物は何?」
「何?ううん、何かな?ここの料理はなんでも美味しいから、何とは決められない」
「そうね、私もここに来てから初めて美味しいなんて思った」
「じゃあ好きな花は?」
「花も木も、植物は大抵好きよ。この辺りに咲く花はほとんど知ってる。たまにしか咲かない珍しい色の花の育て方だって知ってるの」
「花が好き?」
「好き」
「他には何が好き?」
「他?そうね、私を拾ってくれた奥様が好き。話せてはいないけど旦那様も好きだし、お嬢様も好き。お兄様方は会ったことないし、名前も聞くのを忘れたからあんまり分かんないけど。ダツラも好き。料理長も好き。名前も知らない人も多いけど、私のことを、花園のことを認めてくれるここの人達はみんな好き。もちろん、ジャクルも好きよ。ねえ、ジャクルは私のこと、好き?」
「……まだ分からない。会うのは二回目だし、カイラのこと、まだよく知らないから」
「そう、よね。じゃあこれからいっぱいお話ししましょ。次までに誕生日プレゼントも用意して置くわ」

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