見出し画像

桜色、貴方の色1818文字#シロクマ文芸部

↑こちらを見て頂くと、もっと分かると思います。

◈◈◈
桜色のものが、貴方は良く似合う。

◈◈◈
時は明治。
眞尋は何時もより早くに目を覚ました。
まだ早いからと布団でウダウダする事はせず、ゆっくりと体を起こし台所へ行ってお湯を沸かしに行く。

沸かしている間に顔を洗い、服を着替える。そうこうしているうち沸いたお湯でお茶を一杯入れて飲む。

そして、お茶をすすりながら台所へ戻りお弁当と朝ご飯を作っていく。

自分の規則正しい生活。

今日は作家をしている友人のもとに向かい原稿を受け取って来なければならない。

作家の友人は、今頃う〜んう〜んと言いながら頭を悩ませているだろうが、それを見守りながら原稿を急かさなければならない。

眞尋は、手に鞄、封筒を持ち一人暮らしをしている家から友人の家へと出発した。

◈◈◈

「眞尋〜もう少しだから、もう少しだから、待っててな!」

「焦らなくても、完成するまではここで監視してます」

「監視って…………、
物騒なこというなよ……っ」

眞尋は、幼馴染で作家をしている秋彦の家に着き、友人の筆の進み具合を急かさず見守ってはいるけれど、当の秋彦は中々筆が進んでいない。

そんな姿を見かねた眞尋は、秋彦に声をかけた。

「秋彦、」

「うん?」

「少し、散歩しないか?」

◈◈◈
少し渋っていた秋彦を半ば無理矢理外へと引っ張り出し、二人で散歩をする事にした。

丁度市場のある町では、出店(でみせ)が沢山出ていて賑わっている。

秋彦と会話をしながら市場の店を見ていると、ふっと、桜色の綺麗な髪飾りを見つけた。

眞尋は、気付かぬ内にそれに見とれていたらしく、秋彦が「何に見とれてるんだ?」と茶化してきた。
眞尋は少し照れながら秋彦の質問に答える。

「……この桜色の髪飾り、春子さんに似合いそうだなーと思って……」

「……そう思うなら、買って春子さんに渡せば良いんじゃないか?」

「うん、そうだね。そうしよう」

春子さんとは、眞尋がお付き合いしている人だ。
眞尋より2つ年上で、同じ出版社で働いている。

「……綺麗で優しい色だな」

「うん……、春子さん。桜色がとっても似合うから……」

その時ーーーーーーー

「あら?眞尋と、秋彦君?」

『……!春子さんっ!!』

「あ……やっぱり二人だった!
どうしたの?こんな所で、息抜きでもしに来てるの?」

「そういう春子さんは?どうして此処に?」

眞尋が春子に聞く。

「今日は、お仕事が早く終わったから、早めに退勤させて貰ったの。」

「……そうだったんだ……」

「それで?二人は、どうして此処に?」

「秋彦が煮詰まっちゃってるから、気分転換に、散歩に行こうって…」

「んふふふ。そうだったんだ」

春子と会話をしていると、秋彦が眞尋の脇を小突いてきた。

「眞尋、今渡したらどうだ?」

「えつ!!?今っ!!」

「…、?どうしたの?」

こんな町中で贈り物を渡すのか?
……そんな疑問が浮かんできたものの、畏まって改めて渡そうとすると尻込みをしてしまいそうな自分が居た。

「…………あの、春子さん……」

「はい。なんでしょうか?」

「これ、桜色の髪飾り。春子さんに似合いそうだと思って……
その…………、贈り物です」

そう言って、眞尋はさっき購入したばかりの髪飾りを春子に手渡した。

「……こんな所で渡して、ごめんなさい……」

少しの沈黙……。
眞尋は、あれ?違った?と不安になった。その時…………

「……しい、」

「………えっ?」

「とっても嬉しい。
 この髪飾り、とっても綺麗。
 ……ありがとう、眞尋」

そう言うと、春子は手渡された髪飾りを両手で受け取り、大事そうに自分の胸元に押し当てた。

「本当に嬉しい。…渡す場所なんか関係ないわ……、大切にするわ。眞尋」

少し泣きそうな春子の顔を見ながら、眞尋は贈り物が喜んで貰えてホッとした。

桜色は、春子の色だ。

優しくて、可憐で、温かい、春子そのものだ。


「っ!……そうだ……」

そんな二人の光景を見ていた秋彦が呟く。

「?、なんか言った、秋彦…?」

「俺は、眞尋と春子さんをモデルにした小説を書く!」

『えっ…!!!』

「そうだ!!そうしよう! 
 …今まで悶々としてたのが嘘みたいに物語が浮かんでくる!!
………!早く、早く書かないとっ!!」

そう言うと、秋彦は足早に自宅へと戻っていく。それこそ、二人をお構いなしに。

「コラッ!秋彦!!
俺と春子さんの話を書く事を、俺はまだ許してないし、それより前に、煮詰まっていた方の原稿を完成させてよっ!!
秋彦!!!!」

眞尋が恥ずかしさと怒りで赤くなっている顔を春子は微笑ましい顔で見ている。

けれど、春子も一緒になって「追いかけましょう!」と言って眞尋の腕に優しく手を回す。

自分をモデルにした小説を書かれてしまうかもしれない、何とも言えない恥ずかしさと嬉しさが入り混じり、ゴチャゴチャな感情になっている眞尋を、春子が優しくなだめながら、二人は秋彦を追いかけて秋彦の家へと向かっていく。

春子の手には、眞尋に貰った髪飾りが、静かに優しく掌に収まっているのだった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?