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ひらひら舞う。1987文字#シロクマ文芸部

逃げる夢中になって。
貴方に気付かれないように。
私の気持ちが、貴方に分からない様に。
でも、本当は…………

今日も騒がしい喧騒の中、私はセクシーな洋服を着て、ダンスを踊る。周りはいつもお祭り騒ぎのように騒がしく、黄色い声援が飛び交い、お酒の匂いも立ち込める場所。
私はしなやかに体を動かし、セクシーにありったけの色気を出して、ここに来てくれたお客さん達を非現実の世界へと誘っ(いざなっ)ていくのだ。

カランカランッ!

喧騒の中でも響く、大きい音。お客さんが入店してきた合図。私は扉の方に目をやる。………私の胸が、トキンッと音がなった。……いけない。パフォーマンス中よ。けれど私の視線は彼の元へと向いてしまう。彼に惹かれて、恋をしている。
そんな彼は、ここに来ることが、とても苦痛そうだ。

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「お酒、何か飲みますか?」
私は私の出演するショーを終え、次はお客さんの居るテーブルでの接客になる。
そんな私は、さっそく彼の元へと向かう。
「大丈夫です。俺、酒はあまり得意ではないんです」
「……そうですね。知ってます」
そういうと、私は彼の座っているソファーの隣に腰を下ろす。彼は、ビクともしない。

「今日も、ここへ来たのは、接待ですか?」
「ええ、まあ、そうですね、」
「あまり、お得意ではありませんよね?こういう所……」
「………………すみません」
彼は、とても申し訳なそうな顔をしながら持っているお酒のグラスを前後ろへと動かす。
「別に、謝ることはありませんよ。人それぞれだし、………それに、嫌な場所に付き合わなくちゃいけない事だって、ありますもの」

私と彼は、こうして何気ない会話をしている。
彼が、初めてこのお店に来た時から。最初はただのお客さんの一人だったけれど、何となく目で彼を追うようになり、私は次第に、彼に落ちてしまった。

「……そういえば、接客されていた方は?お手洗いですか?」
「ふふっ、いいえ。こちらに推している方が居るそうで、今その方はステージに上がっているので、最前列でご覧になっています。」
「そうだったんですか。だからお一人だったんですね。」

私と彼は、こうして話すけれど決してタメ口は使わない。
これは、私の中のルール。私の気持ちを、悟られない様に。気付かれないように様に。

「………あの、ユリエさん。」
「はいっ!何ですか?」

申し遅れました。私はここの店員として働いている、ユリエといいます。

「………俺、初めてここに来た時は正直な話、苦手で、接待なんか放り出して、直に帰りたかったんです」

「………はい。わかっていましたよ。私」

「あはははは、わかりやすかったですね」

彼の無邪気な笑顔に私はドキドキした。
………笑うと、こんな顔すんだな〜と。

「……けど、今は、苦手な気持ちは初めの頃に比べたら、ここに来るの、嫌じゃないんです」

「えっ!?そうなんですか?」
気になる会話になりそうになった時。

『ユリエー、そろそろまたお願〜い。舞台、代役して!!』

えっ!代役…………!!
……嘘でしょ〜、一番いい所だったのに。

「あの、すみません。代役頼まれてしまって……私、またそろそろ行かないと…」

「はい、聞こえてました。お気になさらずに」

「ほんと、すみませんっ。お話の続き、また聞かせてくださいね!」

私が、そう伝え席を立とうとすると、パシッと手を取られた。

「……………っ!どうしました?」
彼は何も言わず私の手を離し、お財布を取り出した。そして、一万円札を私の洋服の隙間に入れたのだ。

「………チップです。お話、楽しかったから……」

私の心臓の音が彼に聞こえてしまわないか、私はそればかり思っていた。
彼は誰が見ても格好良くて、きっとモテるに違いない。そんな彼が、私の服に触り、私の胸の近くの服の間にチップをくれた。

「……俺、ユリエさんがここに居るから、嫌じゃなくなったんです。
貴方がいて、優しく、楽しく、話してくれるから……だから、俺…………っ」

私は彼の言葉を続きを人差し指で優しく塞ぐ。そして、彼に貰ったチップを、彼に返す。

「………えっ?」
私はテーブルにあった適当な紙とボールペンを取り、連絡先を書いていく。

「はい。これ、あげます。この喧騒の中なら誰も気づかないから、今あげます。そしたら、その私にくれたチップで、お食事でもしましょう」

「え………っ!?あの………」

「約束ですよ」

私はそういうと、また舞台に戻っていく。ひらひら、ひらひら、軽やかに舞っていく。彼の事を舞いながらも考える。

この日から次の日には、彼から連絡があり、お食事でもしましょうと、書いてあった。私は直に、はい。行きましょう。
と、返信をして今日も仕事場へと向かう。

私の気持ちに気付かれないように、逃げることに夢中だったけれど、本当は違う。


……本当は、彼に気持ちを伝えたかった。

……彼に、好きです。と言いたかったのだ。


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