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【個人投資家の映画評】12人の怒れる男(1957年公開)

個人投資家の視点で映画の感想を記事にしているシリーズ?の2回目。前回の記事で個人投資家に有効なスキルとしてロジカル(クリティカル)シンキングを挙げたがその点を軸に感想を述べようと思う。

そして今回伝えたいキーワードは「無知と無関心は罪」

息子である君とはすでに1度観ているが、君が社会に出た後で改めて一緒に観て感想を聞いてみたい映画だ。

今回取り上げるのは「12人の怒れる男」

前回紹介した「ウォール街」から遡ること30年、今から70年近く前の古いモノクロ映画だ。公開後は世界中でリメイクされ室内劇の傑作として知られている。優れた脚本があればCGもアクションもいらないということが分かる映画でもある。これまで数多くの映画を観ているが、自分の中で上位5本に入る作品だ。

日本でもこの作品にインスパイアされて筒井康隆が『12人の浮かれる男』を、三谷幸喜が『12人の優しい日本人』を世に出している。

室内劇ということもあり超低予算かつ僅か2週間で製作されたというから驚きだ。2003年に米国の映画団体AFIが発表した米国映画100年のヒーローと悪役ベスト100で、ヘンリーフォンダ演じた主人公がヒーロー部門第28位にランクインしている。ちなみに前回紹介した「ウォール街」のゴードン・ゲッコーは悪役の24位だ。

監督のシドニー・ルメットは数々の名作を世に送り出し、4度アカデミー監督賞にノミネートされながら受賞できなかった悲運の監督だが、その功績から2005年にアカデミー名誉賞を受賞している。また原作者のレジナルド・ローズは実際に殺人事件の陪審員を務めた経験からこの作品を書いたそうで、緊迫感のあるストーリー展開が楽しめる。

ストーリー
父親殺しの第一級殺人罪に問われたNYスラム街育ちの少年裁判で、12名の陪審員が会議室で評決を出すまでが描かれる。

※第一級殺人罪のため有罪はそのまま死刑判決を意味スル。

決定的な証拠はないものの、数多くの状況証拠から11名の陪審員は有罪を確信していた。しかしヘンリー・フォンダ演じる陪審員8番だけが有罪に疑念を抱き無罪を主張する。

評決には全員一致が必要なため、他の陪審員から批判・否定・嫌味の嵐を浴びる8番だったが、そのクリティカルな思考により状況証拠を次々に覆えしていく。ひとり、また一人と無罪を支持する陪審員が増えていく。またその過程では彼らが抱えている偏見や心の闇までが明らかになっていく。

感想
DVDを持っていることもありすでに何回も観ているが、何度観ても魅入ってしまう作品だ。緊迫感のあるストーリー展開と俳優たちの演技が素晴らしく、また1950年代当時のレトロな雰囲気と少しだけ映る当時のNYの景色もイイ感じだ。

作品としてはサスペンスに分類されるようだが、誰も死なず、(肉体的には)傷つかず、ハッピーエンドで鑑賞後も爽やかな気分にさせてくれる。

しかし、よくよく考えるとこの映画はホラー映画でもあると思うようになった。なぜなら父親からDVを受けていた貧しい無実の少年を11人の男たちが寄ってたかって死刑台に送り込もうとする映画でもあるからだ。

しかもその11人の男は殺人などの凶悪犯罪とは無縁で罪の意識などない「善良な一般市民」なのだからなおさらコワイ。

たった一人の冷静で勇気ある、そしてクリティカルな思考を持つ主人公がいなければ皆が無実の少年を殺すところだったのだ。

なぜそんなことになるのか?
それが冒頭であげたキーワードの「無知と無関心」だ。

「無知は罪」とは哲学者ソクラテスの言葉だが、この作品はそれに「無関心」が加わる。※もともとの意味は今回の話とは違うので興味があれば調べておくと良い

作中では少年のことより、これから観に行くヤンキースの試合が大事だったり、自分の会社のことが気になったりする人たちがいる。またスラム街の住民や移民への偏見を持つため冷静な判断ができない人、一見ロジカルだが事実の見落としによる間違った解釈で有罪を主張する人などが描かれる。

正確な知識に基づかず、大事な情報を見落とし、きちんと考えることができず、偏見や先入観からその場の感情や雰囲気に流される。そして事の重大さを認識せず無関心なまま安易に評決=判断を下そうとする。

世の中には「そんな感じ」で投資判断をしている人が少なくない。
株主優待が魅力的だから、配当金が多いから、有名企業だから、不動産投資の融資が付いたから、銀行や業者が薦めるから、プロであるアナリストやエコノミストが断言しているから、好きな芸能人や経済評論家が言っているから、先輩が薦めるから・・・そして極め付きは今話題になっているSNSの投資詐欺だ。

あるいは逆に「そんな感じ」で投資しない判断をする人もイル(こちらの方が多数派か?)
TVによく出ている大学教授がNISAはヤメロと言うから、同じく経済ジャーナリストのあの人が投資はオヤメナサイと言うから、レジェンドと呼ばれる国産ファンドの代表が暴落すると叫んでいるから、昔親戚の叔父さんが株で破産したから、株をやる人は胡散臭くてラクして稼ぐ卑しい人たちだから、経済に関心がないから、資本主義が嫌いだから、投資に関心ないしそんなことは国や銀行がやるべきだから・・などなどだ

前回の書いた記事で伝えたかったことを理解してもらえただろうか?ロジカルな思考ができなければ投資での失敗確率は格段に上がる。

百歩譲って投資で自分が失敗するならまだしも、自分が罪を犯すことになるかもしれないのだ(それが裁かれることのない罪だとしてもだ)

最近以下のような記事が出ていたので紹介しておく。こういう報道がされると学生にも法律を教えろ、道徳を教えろとか言う声が上がる。それも必要だろうが、同時にきちんと考えることの訓練が重要ではないかと思う。

平成21年から日本も裁判員制度が導入されている。
もし指名されることがあったら、君は陪審員8番のように周囲の意見に流されず、冷静で勇気を持って、そしてロジカルに考えて適切な判断を下すことができるだろうか。

その時には「無知と無関心は罪」という言葉を思い出してほしい。

追記
この映画の主人公は「ウォール街」のゲッコーとは対照的だ。善良で誠実で思慮深く勇気があり、そして驕り高ぶらず人を見下すことなくリスペクトし、思いやりがあって優しい(ゲッコーとか前大統領とは真逆の人間だ)

ラスト近く評決が出て皆が退室するシーン。偏見に囚われ有罪を主張し激論を交わしていた最後の一人が自分の過去の過ちを認めてうなだれている。

主人公がその肩に手をかけ、勝誇るでもなく見下すでもなく、優しい眼差しでそっと上着を着せる。古き良き時代の米国が理想とする男、あるいは父親像を見た気がする(今更だが、ネームをGekkoから陪審員8番に変えようかと思ったのは内緒にしておく)

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