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ふありのリハビリ作品 act.10

Make a Wish(願い事)


この作品はマガジンを作成しております。ご興味を持たれた方、途中参加の方は、そちらの方から入って頂くと読みやすいかと思われます。
よろしくお願いします。


#10.それぞれの想い

「う…ん…」
ベッドの上で寝返りをうつ。数学の宿題が一段落つき、仮眠を取るために、ベッドに倒れ込んだ。どうやら、そのまま熟睡してしまったらしい。
手探りで、スマホを手に取ると画面が点滅している。
優木風帆ゆうきかほの名前。
ピーーーー
着信音と共に、ややかすれた風帆の声が耳に飛び込んでくる。
「あのさあ、これで5回目なんだけど…電話、早く出てよぉ」
あの朝以来、風帆には接触していない。嫌われてしまったと思っていたから。
でも、もしかして違うのかも。あたしは何を言われても良い覚悟でスマホを会話設定にして耳に当てた。
風帆かほ…どうしたの?」
少し声が小さくなってしまったけど、でも、ちゃんと風帆の声が帰ってきた。
「莉々那あ〜。この前はごめんね、顔傷つけちゃった。ウチ短気だからついカッとなって…本当にごめん」
「良いよもう、あたしだって風帆のこと傷つけるようなこと言っちゃったんだし」
「…お互い様ってこと?そうか…うんそうだよね…。おあいこだ」
電話越しに風帆の鼻をすする音が聞こえてきた。
「あのね…聞いてね。ウチ凄いことになっちゃった。…ウチ…どうしょう…」
ぐずず…ぐずず…
風帆の涙声に、ハッとしてひとみを開け、スマホをぎゅうっと耳に当てる。
「風帆、どうしたの?何かあったの?」
そう言いながら、時計を見る。
午前4時
「りりなあ〜聞いてよ」
風帆は、グスンと鼻をすすり、あのねと、話を切り出す。
「騎士先輩が、お試し期間くれるって…。ウチ、昨日の夜先輩に告っちゃった」
「えっ?!」
いきなりの展開に、冷水を浴びたかのようで、身体が覚醒する。
告ったって…告白したの?
「ウチ、振られた女126番目の女になるって思っていた。ほとんど…。そりゃあピュア王子のほうが、今では人気者だけど、でもウチは、絶対騎士先輩一筋だから」
「うん。そうだね…」
あたしは、心を鎮めて、風帆の話を聞き続ける。
「それで…」
「うん。それで…玉砕覚悟で告白したら…先輩、お試し期間をくれるって。3ヶ月以内に先輩がウチのこと好きになったら、正式な彼女にしてくれるって。莉々那〜どうしょう、こんな展開想定外だよ…ど〜しょう。ウチ、どうしたら良い?」
そんなの…あたしにだって分からない。あの、完全な女子スルーの騎士先輩が、風帆に、一応OKしてくれた。でも…お試し期間って…
「悩む必要無いよ。つまり、あれかな、仮彼女っていうのかな。折角のチャンス逃しちゃダメだよ」
「期間限定彼女かぁ〜。…うん。ウチ、やるよ!莉々那は、どーするの?王子のこと、やっぱり断るの?」
このまま、有耶無耶な関係にしたら、王子が気の毒だよ。風帆の言葉にはそんな意味が込められていた。
「あたし…結婚するかも。約束も…思い出したし…。稀くんと大家族になるって。冷静になって考えてみたら、それも悪くないかもって思えたの」
つまりは、二次元の卒業だ。
「…けっ、結婚?莉々那、どうしちゃったのよ?ルーナ・シャンティは?忘れられるの?」
風帆がスマホの向こうで、頓狂な声を上げる。
「ごめん、風帆。色々心配してくれてあるのはわかる。…でも、もうなんだか眠くて…続きは明日ではダメ?」
あたしはあくびを噛み殺して言う。
「うん!ウチも莉々那に話したら、パニック収まった。ね、明日待ち合わせして登校しよう!早く話したい!」
「いいね、それ」
*****
朝の商店街の花屋の角で風帆を待つ。花屋は勿論まだ開いてはいない。同じ制服姿ののを見つけては飾音かざね高校の生徒だと分る。ひとりでマイペースに歩く子、2、3人できゃあきゃあ話に花を咲かせて、ノロノロ歩く女子生徒たち。本を片手に、読書しながら(あたしには、そんな芸当は無理)あるく、猫背君の男の子。
朝の8時は、飾音っ子たちが登校するラッシュ時だ。
「おはよー。莉々那」
 いつもの様に勢いよく、肩に抱きつかれたあたしは、一瞬目が白黒してしまう。風帆だ。
「おはよ、風帆」
 あたしは、やわらかく微笑み、親友の手の甲をポンポン叩く。
「はぁー。ウチさ、莉々那と話すまで、一睡もしていないんだよね。ふあああ。寝不足なんだ。授業サボって裏庭とかで寝てようかな〜。でも、まだ、ウチ、莉々那に訊きたいコト沢山あるんだから。王子と結婚って、どーゆう意味?」
そう言って風帆が、あたしの脇腹を肘で突く。
「ん…。あのね…」
 そこであたしは、風帆に、稀くんと交わした出来事を、その内容を慎重に言葉を選んで説明を始めた。


#11.和解、へ続く




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