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あの空間

  映画館で働いていたころ、従業員特典で映画を無料で観ることができた。
今までなら、恋愛映画やゾンビ映画、ファミリー映画なんかにお金を出してはもったいないと避けていたが、タダなら話は別だと、とにかく様々なジャンルの作品を観まくった。
 
その中でも印象に残っているのが『小野寺の弟、小野寺の姉』である。
小野寺の弟・小野寺の姉 : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)

片桐はいりさんと向井理さんが兄弟という設定。なかなかこの時点で面白そうである。

 
 人が多い時期であったため、ほぼ満員状態。しかも、子供連れに囲まれ、静かに映画を楽しみたい自分にとってはあまり良い環境とは言えなかった。ちょっと残念ではあったが、暗くなってしまう前に早く席に着かないと。
 
 映画が始まった。しばらくすると、館内は笑いに包まれていた。なぜなら、周りにいた子供たちがゲラゲラ笑っていたから。
子供たちは片桐はいりさんが出てくる度に、大笑いしていた。
その大笑いする子供たちにつられて、大人も大笑いしていた。
知らぬ間に私も大笑いしていた。

 片桐はいりさん演じる小野寺の姉が愉快なのだ。向井理さん演じる弟を楽しませようとするのだけど、それがおかしくて。愛おしくて。
それを観た子供たちがツボってしまったのか、はいりさんが出てくる度に大笑い。大人も大笑い。私も大笑い。

 不思議とうるさいとは思わなかった。いつもなら、もうちょっと静かにしてーと言ってしまいたくなるのだけれど。
でも、そうならなかったのはこの作品の力だったように思う。
内容ははっきりとは覚えていなくとも小野寺兄弟のやり取りが微笑ましかった。小野寺兄弟を取り巻く環境が温かかった。
それが、画面を通して観客にも伝染していた。
普段疎ましく思ってしまう子供たちでさえ、微笑ましく見えた。
そんなほのぼのした空気が漂っていて、すごく心地よかった。
あの空間で観ることができてよかったと今でもたまに思い出す。



#映画にまつわる思い出

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