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【エッセイ?】三日坊主の分水嶺

夏が終わり秋に差し掛かる時分。爽やかな風が吹き、眼前の山々からは気持ちよさそうな鳥の鳴き声が聞こえてくる。

心地の良い初秋。忠義の厚い部下と共に川のほとりに陣をとる。字面だけ見ればピクニックとも思える気持ちの良い日ではあるが、彼らを見て楽しそうと思うものはいないだろう。

理由は明白である。重々しい甲冑を身にまとい、張り詰めた弓のような緊張感で向かいの山際を見つめる。その顔はこれから戦に向かう武士もののふの顔だった。彼らが見つめる先から敵が現れ、合戦が始まるだろうことは誰の目にも明らかであった。

突然、空気が変わる。

心地よく歌っていた鳥は一斉に飛び去り、野草を食んでいた鹿は逃げるように駆け回る。張り詰めた緊張感がさらに張り詰め、痛々しい沈黙が場を支配する。

そして、やつらは現われた。

三日坊主の軍勢である。

noteに投稿を始めて三日目の我らを、三日坊主が息の根を止めにやってきたのだ。


実はこの中に一人、死地に似合わぬ軽い気持ちで挑んでいる者がいる。

そう、私である。

私、ツキは現在病んでいる大学生であり、感じている苦しみを書き出すことで頭の中を整理することを目的にnoteを始めた。どうせ全く続かないと思っていたが、初投稿の自己紹介記事にスキを3つ貰えたことで嬉しくなり、なんやかんやで三日間は続けることができた。

私は隣に控える参謀に声をかけた。

やい、参謀。此度の三日坊主はどれだけ恐ろしい軍勢かと戦々恐々としていたが、大したことはなさそうではないか。私は少なくとも我が軍の倍以上の敵が現れると思っていたが、実際は半分以下。これでは負ける方が難しいというものよ。

すると参謀はナスビのような呆れ顔で言った。

「そうは言いますが殿。今までの戦でも三日坊主の軍勢はまるで大したことがない様な風を装って、油断した我らを何度も圧倒してきたではありませんか。つい3ヶ月前もランニングの三日坊主に大敗したことをお忘れですか。」

参謀はそのナスビ顔を歪ませ、しわくちゃなナスビ顔でこちらを見てくる。ええい。貴様のその腐ったナスビのような顔をやめろ。私はナスビというものが、この世の野菜の中で一番嫌いなのだ。貴様の顔は私を挑発している様にしか思えない。

確かに私は何度も三日坊主と戦い、敗れてきた。筋トレの三日坊主、瞑想の三日坊主、日記の三日坊主、独学の三日坊主、えとせとら、えとせとら。今までに積み上げた尸の数は優に千を超えるだろう。

しかし、あえて言おう。今回は違うのだ。

自分が書いたものを誰かに見てもらえる。その上、スキを貰える。これが存外楽しい。筋トレにも瞑想にも日記にも足りなかったのは誰かに見てもらえるという環境なのだ。

自信満々の私に対して、しかし参謀の顔は冷ややかだった。

「殿は筋トレを始めた際も同じ様なことをおっしゃっていました。ことあるごとに全裸で鏡の前に立ち、自分の体が変わっていく様が楽しい。筋肉が喜んでいる。私に足りなかったのは慈しみの心だ。筋肉への愛情だ。そう豪語していたにもかかわらず、三日坊主にあっけなく敗れたではありませんか。」

おのれ参謀め。炎天下の夏に買ったナスビを車の中に1週間放置したような顔をしおって。せっかく買ってやったのに腐ってドロドロになり、車のトランクを汚したナスビが、私は全ての野菜の中で一番嫌いなのだ。

そこまで言うのなら何か作戦を立ててみろ。三日坊主を完膚無きまでに懲らしめる様な作戦を。そう言うと参謀は、語り出した。

「良いですか、殿。大切なのは必ず継続すること。そのために決してハードルを上げないことです。殿の悪癖として、すぐに調子に乗って厳しいノルマを課すところがあります。筋トレの三日坊主との戦いでも、毎日腕立ての回数を増やしていったではありませんか。」

なるほど、悔しいが言わんとすることは分かる。しかし、あれは少しでも早く結果を出すことでモチベーションを保つという極めて合理的な考えがあってのものであった。

「なりません。なりませんぞ、殿。その結果が今までの大敗であるならば、やり方を変えねばなりません。殿はネガティブですぐに自分を責めるところがございます。そのため、続かない日があると、自暴自棄になってやめてしまいます。それを防ぐためには必ず継続すること。そして、1行日記を投稿すれば全力で自分を褒めるくらいまで、継続のハードルを下げる必要があります。」

なるほど、確かに合理的である。1行日記程度なら書くのに5分もかからないであろう。これなら継続するのも容易い。

「そして、もう一つ、重要なことがございます。」

む、それは何だ。

「スキに囚われないことです。この先、もしかしたら多くのスキを頂ける記事を書くことになるかもしれません。しかし、スキの数の基準を上げてしまうと、良いものを書かなければならないとプレッシャーになり、継続が困難になってしまいます。一つでもスキを頂ければ良いのです。それは誰かが殿の記事を読んで喜んでいただいた証なのです。一つのスキを大切にするのです。」

確かに大切なことに思える。スキの数が増えていくと、スキがただの数字に思えてくるかもしれない。しかし、私は忘れてはならないのだ。そのスキの向こうには私の記事を読んで喜んでくれた人がいることを。スキを追い求めること自体は悪いことではないが、囚われてはならない。


気がつけば、三日坊主の軍勢は一触即発の距離にまで近付いていた。此度の戦いは厳しいものになるのかもしれない。しかし、負ける気はしなかった。

それは少し前の自分が持っていた、根拠のない自信ではない。優れた作戦、忠義の厚い部下、そして何より、頼れる参謀がいるから生まれる自信である。

私はナスビ顔の参謀に声をかける。

参謀よ。

「なんでしょうか、殿。」

実はナスビのこと、嫌いではないぞ。

参謀はきょとんとした顔をした後、微笑って返した。

「なにのことでしょうか。私はナスビの味と食感が野菜の中で一番嫌いなのです。」

つられて私も微笑う。

いざ、戦が始まる。



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