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小説ですわよ第2部ですわよ5-1

※↑の続きです。

 新年早々、赤と青の無職はなぜこんな犯罪スレスレの水着なのか。レッドはともかくブルーはそんなキャラだったか? そもそも爆破されたと聞いて気が気じゃなかったというのに、ふざけるのも大概にしろ。こっちは異世界に飛ばされて疲れているんだ。舞はそんな気持ちを、一言に込めて叫んだ。
「あんたたち!」
 レッドとブルーの肩がしゅんと落ち、目を伏せる。しかし不本意なのか視線を下に向けたまま、小声でブツブツと文句を垂れ始めた。
「なんでオレたち怒られたのかな」
「迎えに来てあげたのにね」
「わかったぞ。ブルーが無事なわけを説明しないからだ」
「えっ、俺のせい? でもこの人、面倒なこと一から十まで話さなくてもなんか適当に流してくれるよ?」
 舞にはすべて聞こえていたが、怒りの追撃はしないで様子をみる。
「とりあえず説明しておこう。それで収まったら、いいんだから」
「しょうがないなあ、わかったよ」
 レッドとブルーは何事もなかったかのように顔をあげ、ニコニコ笑顔を向けた。アヌス02の住民の表情に似ていて舞はイラッときたが、ひとまずこらえる。
「水原さんが行方不明になってた間のこと、全部話すッス」
「でもここは危険だから、社長の家に向かいがてらで」
「危険? ……わかった。こっちも向こうであったこと話すよ」
 レッドとブルーは近くにMMを停めてあるとのことで、そちらへ走っていく。レッドは鍛えた筋肉質の、ブルーはちょっと柔らかそうな尻を揺らした。水着が食いこんで、実質的に丸出しである。しかし舞は帰還した途端に疲れがわいてきて、もう叫ぶ気力はない。よろよろとピンキーに乗り、MMとの通信回線を開くよう頼んだ。

 ちんたま新都心――通称:ちん都心から、事務所のある裏筋駅近辺まで約20分ほどの間、レッドとブルーが通信ごしに状況を説明してくれた。
・まず、ちん都心の周辺は、機械蜘蛛が制圧してしまったらしい。詳しい理由は不明だが、アヌス02から送られる浣腸ビルを出迎えるためだと思われる。
・対して綾子は、ちんたま新市長である“清水沢あすか”を説得し、一帯の人間を退避させた。無人なのはそのためだった。対外的には「なんJ民が爆破テロ予告をして、避難命令が出された」ことになっている。ちんたま市民は元から鈍いので気づくことはなく、市外も他の吸血鬼の強力によって情報が統制されているとのこと。
・ただ、ボッシュートされた大量の“ひとしくん人形”が某国民的トーク番組の正月生特番をジャックして世間がざわついたらしい。
・機械蜘蛛は事務所を襲撃したあと、他に大きな危害を加えることなく、ちん都心周辺に集合して休止状態にあるそうだ。
・ネイビーは2代目つんおじが間に合って、一命を取り留めたのことだった。他の事務所のメンバーも全員無事で、今は綾子の邸宅を仮拠点としているという。
・ブルーはセーフハウス(プレハブ小屋で最悪だったらしい)を爆破されたが、自分を“セルフつんつん”してダメージを最小限に抑えることで、生き延びることができたそうだ。
・当初、特異点と目されていた“田代まさし氏”だが、神沼02が仕掛けたブラフである可能性が高いとのこと。特異点に近い存在といわれたマサヨも、直接的な関係性は薄いというのが綾子の考えだった。
・裏切ったマサヨと愛助の所在は掴めていないが、機械蜘蛛と同じく、ちん都心にいると思われる。
・マサヨが言った『真の特異点』については不明。ただ綾子には、いくつか心当たりがある模様。
・そして、これが大問題なのだが……レッドとブルーは自分たちの異様さを理解していないようだ。逆に舞が「いつもの色ジャージはどうした」と尋ねても要領を得ない反応が返ってくるばかり。どうも本気で、あの変態スリングショット水着を“いつもの服”と考えているようだ。ピンキーセプターは、異なるアヌスが交わったことによって、世界の理が乱れているのではないかと推測を示した。舞は珊瑚が同じような状態になってしまっては大変だと思った。

 かくして大摩羅市の外れにある綾子の邸宅についた。「Carmilla」の表
札が掲げられた鉄柵の門が自動で開き、MMとピンキーが庭園を通り抜け、屋敷の前で停まる。
 と、家の巨大な木の門が勢いよく開き、中から何者かが出てきた。舞は車を降りて目を凝らすも、疲れからだろうか判然としない。見慣れぬ異様なシルエットがそこにあった。
 手足は黄色いタイツ。赤い頭部の上にはカップ焼きそばを思わせる四角い物体が乗っており、同じく赤い胴体には「U.F.O」と印字されている。まったくわけがわからない。焼きそばの宣伝キャラクターか?
 しかし切れ長の目と、TVディレクターのような笑い声から、正体は一瞬で誰かわかった。
「ハハーッ、ハッ! おかえり、水原さん、ピンキー!」
「なんでそんな恰好してるんですか、イチコさん!?」
「なんでって、なんで?」
 イチコがカップ焼きそばヘッドを横にかたむける。どうしてそんな質問をするのかとでも言いたげだ。
 しかし舞は、イチコの姿恰好が何か知っている。YouTubeの懐かしCM集のような動画で見たことがある。だから残りの気力とイライラを絞って叫んだ。
「なんでマイケル富岡になってるかって、聞いてるんですよ!」

つづく。