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小説ですわよ第2部ですわよ2-4

※↑の続きです。

※↑マルチアヌスについては、こちらをご覧ください。

 神々のケツ穴すべてに、浣腸を挿す――
 神沼は迷いなく、静かに、力強く目標を語った。
「なにそれ?」
「僕はこの世界に真の平和と幸福をもたらした」
 神沼はデスクの引き出しから、丸い飴玉を取り出し、包装紙を剥いて口の中で転がす。そして聞いてもいないのに、自分たちの一族がいかにして世界征服――この男たちにとっては平和的併合だが――を成し遂げたかを語り始めた。内容は単純。巨大な人型兵器を開発し、その圧倒的な武力で世界を手中に収めたというものだ。それから機械を全人類に埋め込み、感情を制御したという。話もそうだが、途中で何度も聞こえる、飴玉が歯にあたる音が気持ち悪くて仕方なかった。

「このおぞましいほど幸せな世界の状況は大体わかったわ。それで?」
「次は、他の世界に幸福をもたらそうと思う」
 笑顔を崩さず語る神沼。マサヨの背筋にキンと冷たい恐怖が走る。神沼が指でノックするようにデスクを叩くと、デスクの中から半透明な半球がせり上がってきた。半球の表面には、プラネタリウムのように小さく輝く白い点が無数に広がっている。それはマサヨがピンピンカートン探偵社の事務所で見たものと、ほぼ同じ形状であった。
「ま、まさか、異世界観測装置……?」
「そちらの世界にもあるのだね。説明が省けて助かるよ」
 神沼が人差し指と親指で、スマホ画面をピンチするように半球を撫でる。すると、小さかった白い点々が拡大され、惑星のような球体群が映し出された。球体群には数字が振られており、その中から神沼は『02』の球体を指さす。
「これが僕らの世界、アヌス02。見ればわかると思うが、近隣の世界は03、04だ」
「手近なところから侵略しようってわけね」
「侵略ではない、幸福のおすそ分けだよ」
「で、私たちの世界はどれ?」
「ここにはないよ。おや、知らないのかい?」
「はあ?」
 単純な疑問か、煽られているのか、固まった笑顔からは読み取れない。それが余計にマサヨを苛立たせる。しかしよく考えれば、事務所で観測装置を見せてもらったとき、自分の世界がどこにあって何番なのか教わらなかった。

 神沼が装置の表面を軽く叩くと、異世界の数々から光る糸のようなものが伸びていき、それらすべてが半球の頂上の一点に集約される。異世界へ転生する者たちは、この集約点から光る糸――神々の腸――を通って、マルチアヌスと呼ばれる各異世界へ排泄されるという仕組みだ。マサヨはそれについては既知であると神沼に伝える。
「ならば、この集約点は何かわかるかな?」
「さあね。アヌスの持ち主、神様の家ってところじゃないの」
「間違ってはいないが、解像度が低いね」
「もったいぶってないで、さっさと教えなさいよ!」
 声を張ると、周囲の黒服たちがビクッと肩を震わせた。自分たちにない怒りの感情に動揺したのだろうか。愛助はボーっと立ち尽くしたままだし、神沼は笑顔を微動だにしない。つくづく不気味な世界だ。
「この集約点の先にも世界がある」
 神沼が装置の表面をノックすると、半球の外側、ちょうど集約点と重なるように世界がひとつ表示される。そこに刻まれていた番号は……
「これがアヌス01……?」
「あらゆる異世界へ通じ、この世界からすべての転送者が排泄される。01こそすべての始まり。01こそ果てしないケツ穴を有する神々そのもの。これが、君たちの世界だ」
 マサヨもそんなところだろうと、以前から薄々察してはいた。自分たちの世界から転生してくる(そして返送される)者は大勢いるのに、異世界から自分たちの世界へ転生してきた話は聞いたことがない。少なくとも綾子は異世界からの転生者を認識していないようだ。ゆえに一方通行のようなシステムなのではないかと思っていた。

「あまり動揺はなさそうだね」
「この世界に順応したのよ」
 わざとらしく笑顔を作ってみせたが、神沼の表情は当然動かない。マサヨは小さく舌打ちしてから話を続ける。
「あんたは手始めに私たちの世界が欲しいんでしょ。そして01を起点に、領土を広げていくと」
「幸福領域と呼んで欲しいね」
「どっちだっていい。拡張するのは自分のケツ穴だけにしなさい。魂が腐った世界なんて幸せでもなんでもないわ!」
「落ち着きたまえ。ここからが本題だ。君はなぜ、この世界に呼び出されたか知りたくないかい?」
「どうせ私を尖兵にしようって魂胆でしょうよ。この黒服たちみたいに、機械を植え付けて」
「なぜ君が選ばれたと思う?」
「……そこに意図があるっていうの?」
「というより、干渉できるのは君だけだった。現状、我々は他の世界へ直接的に介入できるレベルにない」
「私を利用すれば、レベルを引き上げられるって言いたげね」
「ああ。なぜ君なのか。それは君が特異点に近い因子を有しているからだよ、田代マサヨ」

つづく。