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【カサンドラ】 35. hide

私はあの強烈な衝動が再び襲ってくるのを待っていた。
死ななければいけないという切迫した焦りは
気分の良いものではないけれど、
それでもこれ以上この人生を生きることの方が地獄だった。
あの衝動を待つ間も、生活をしていかなければいけない事情は変わらない。
明日から来なくていいと言われたからといって、本当に行かないわけにもいかず
しばらくは何事もなかったかのように出社を続けた。

職場の雰囲気の中で、明らかに私だけが違うというのが
まるで色を着けていくかのように顕著になり始めていたけれど
私はいつもの事だとどこかで諦め、独立の準備を整え始めた。
すると誰にも何も話していないのに、
ある日私の仕事を引き継ぐ新人が入社してきた。

1人で走り続けた4年半、私はいつも一枚の商品を作るのに全てを掛けていた。
デザインに関する専門知識はないけれど、気力と体力の限界まで店頭に立ち続けた経験に助けられ
やっと、自分が本当にやりたいと思える仕事ができるようになったのだ。
孤独が浮き彫りになり始めた当時の私にとってこの仕事は、
私の全てだった。

まるで生命が吹き込まれたかの如く重ねられた、商品サンプルの山を眺め
それらが私の存在と共に処分されてゆく屈辱に苦悩しながら、
せめて最後に抱えた仕事だけは自分でこなしたいとPC画面と向き合い、一人で徹夜していたある晩、
YOUTUBEから流れてくる一つの映像に目が止まった。


ピンクの髪に黄色いジャージを纏ったその人は
更に派手な洋装のバンドメンバーを従え、画面の中を泳ぐように歌い
客席を黄色い歓声で埋めていた。
私がこの人を知ったのは、仕事に行く前のある朝
「亡くなった」というニュースを見た時だった。
あれはもう、10年ほど前になるだろうか。


-hide with Spread Beaver-


つい、先月まで
日焼けした肌にサーフブランドのスウェットを着て
ベージュのムートンブーツを履くような人間しか見えていなかった私にとって
その人が先導する世界は
男性とも女性ともつかない性が奏でる、新しい世界に見えた。
とても10年も前の映像とは思えないファッションとヘアメイクに大きく感銘を受け
深い闇の中で激しく鳴り響くクオリティーの高い音の世界に
私は一瞬で飲み込まれてしまった。


※その時実際に観た映像はこの番組で、森口博子さんとhideさんのトークまで入っているものでした。

ROCKET DIVE-hide with Spread Beaver

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